第112回: 技能実習生は何故疾走するのか
今年に入り4年に一度のサッカーアジアカップが中東のUAEで開催されています。
次のサッカーワールドカップも中東のカタールということで中東のチームはこのアジアカップに力を入れています。
もちろん日本チームも参加しており、今の所中東のサウジアラビアを破り進撃しています。
「アジアカップ」なので当然東南アジアの国々も参加していますが本戦に出場できたのはタイとベトナムの2カ国のみでベトナムだけが今の所ベスト8に進んでおり、1月24日に日本代表と試合を行います。
東南アジアの最後の生き残りですので頑張って欲しいものです。
さて、ベトナムといえば、最近日本で盛んに議論されている「外国人受け入れ」についてクローズアップされています。
筆者は以前、ベトナムの首都ハノイ郊外にある日本語を学び将来日本で「技能実習生」として働くことを目標としている一生懸命日本語を勉強している生徒達を見ました。
首都ハノイや最大の商業地区ホーチミン・シティからの生徒ではなく、殆どがまだ国外に出たことのない地方都市からの若い生徒たちでした。
数名の生徒と交流する機会があり、何故日本に行きたいのかを聞きますと、日本からたくさん技術を学び、ベトナムの経済発展に貢献したいと優等生的な回答でしたが、本音は家族のために「出稼ぎ」に出で家族に送金をして楽をさせたいという純粋な動機が日本語を一生懸命学ぶ原動力になっていました。
面白かったのは、東シナ海に面したベトナムの地図と日本の北海道から九州までの地図を重ねるとほぼ同じシルエットで重なることでした。(縮小は若干しているように見えましたが。)
確かに国土の地形は似ていると再発見しました。そのような授業を進め、おそらく10代後半の生徒達は、尊敬している国「日本」で働くことを夢見ていたと思います。
その日本の「いいところ」ばかりを見せられ日本に行く「技能実習生」ですが、斡旋された場所が地方の縫製工場で朝の8時から夜の10時まで休憩時間を除き実働13時間でひたすら単純労働を強制されお金は稼げたかもしれませんが、日本から学ぶ「技術」は何もなく、期限の迫る2年近くになり突然解雇通告を受け、マニラ経由での片道航空券を渡された例とかが頻繁に起きています。
ベトナム人だけではありませんが、法務省の発表によりますと、2017年は技能実習生が7000人失踪したとのレポートがあります。
これは普通の入社でもありますが、入る前の「イメージ」と入った後の「現実」とのギャップがあまりにも大きく、我慢できず「退社」に追込まれるケースです。
失踪する理由としては労働に見合った賃金を得てない、劣悪な職場環境、与えられた宿舎の施設が良くない等の理由があります。
奴隷のようだったと振り返るベトナム人のインタビューを見ましたが、どうしても日本人の根底にある、東南アジアの人達は自分より格下と思っているのかもしれません。
新しい入管理法では、日本人と同等の報酬を「受け入れ」の条件にし、失踪や不法労働をなくす方向で動いておりますが、日本人と「同等」という考え方がそもそも間違っているような気がします。
シンガポールでは、建設現場で働くワーカーはあくまでもワーカーで賃金に関しては同じ職種で働く以上賃金は一緒です。
ようするに「人」に賃金が付いているのではなく、「ジョブ」に賃金が付いており、法令遵守の企業のみが単純労働者を保証金を払い雇い入れることができます。
とあるシンガポール政府関係の方が「もはや、日本から学ぶべきものはあまりない」と言っていましたが、目を輝かせて日本語を一生懸命勉強しているベトナム人もその内にそうなるかもしれません。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2019年1月24日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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