第7回 東南アジアにおける人事 その7 東南アジアの大学
シンガポールでは求人募集広告の中に、国籍、言語、年齢、民族、宗教、性別、婚姻(家族)状況を限定するような文言を入れてはいけないことになっています。
特にシンガポール人の雇用を排斥するような募集広告、例えば「フィリピン人歓迎」のような、国籍限定の広告に対し、当局は最近特に目を光らせており、あくまでもシンガポール人の雇用を優先的に行うよう雇用主に促しています。
この7項目(以前は6項目で、最近になり国籍条項が加わりました)に含まれていない項目が【学歴】です。シンガポールは学歴偏重の国で、小学生のころから激しい競争が始まり、最終的にはシンガポール国立大学を目指します。
シンガポールにはワーキングホリデー制度があり、在学中の大学生、新卒と呼ばれる大卒者に対して、シンガポールを知ってもらうために、就職お試し労働査証を発行しています。
以前は日本の4年制大学に在学中、もしくは卒業していて30 歳以下であれば<無条件>で下りていました。
そのため、日系の飲食・接客業の店員としてアルバイトをしながら英語を学び、シンガポールに慣れてきたころに就活を始め、日系企業に就職をするという流れがありましたが、外国人雇用規制の一環として、取得条件が厳しくなり、年齢は25 歳以下で世界大学ランキング200 位に入っている大学でないと認可されなくなってしまいました。
使用される世界大学ランキングは、米英に加え、中国の調査機関が作成したものです。3つの調査結果から200 大学を選んでいます。
日本は残念ながら、東京、京都、大阪、東北、東京工業、九州、北海道の7国立大学に加え、私立では慶応1校の8校のみでした。以前は名古屋や筑波、私立では早稲田も入っていましたが、年々下降気味です。
ランキングはどれだけ英文で論文を出しているか、また留学生が何人いるかなどさまざまな項目が決定要因になっています。
トップのほとんどを米英の大学、ハーバード、ケンブリッジなどが占めています。これをアジアの大学に絞ると、各国(地域)は全てが国立大学で、香港、シンガポール、ソウル、北京、東京、台湾、マラヤ(マレーシア)、チュラロンコン(タイ)、インドネシア、フィリピンに続きインド、パキスタンの南アジアの大学が続きます。
人材紹介を行っていた際に採用希望企業諸条件を聞くと、日系企業のほとんどがあまり【学歴】を気にしない傾向がありました。
頭さえ良ければ仕事ができるとは思っていない企業が多いのと、ポリテクニック(専門学校)を卒業している学生で社会経験を数年持っている方が、組織的応力があり即戦力になるからです。
一方、欧米系企業では学部の指定または成績まで条件に入れているところがあり、人事部の人間に「人柄」や「将来性」を押しても全く受け付けてくれない場合があり、温度差を感じました。人を育てていく日系企業文化(人を採用)と育った人を即戦力で採用する欧米系企業文化(ジョブを採用)の違いが垣間見られます。
またシンガポールのMOM(人材開発省)では、他の東南アジアの大学を大学とみなしていない場合があります。特にフィリピンやインドネシア、タイの地方大学は大学ではなくカレッジ扱いになっており、労働ビザを申請する際に却下の一要因になる可能性があります。
【学歴】偏重社会を作り上げたシンガポールが、世界で競争力をつけてきたのは間違いないのですが、先般の首相の施政演説では「大学を頂点とした学歴偏重の社会から、個人の適性や能力を生かす社会への転換を図る」と述べていました。見ていた私はびっくりしました。
外国人には世界大学ランキングで縛りをつけるのと反対に、自国民には緩くしていくのかと思いましたが、労働人口が減っていく中で、先手を打って生産性を上げるための施策を打ち出さねばならない、という焦りのようなものを感じました。これもひとつの転換点かもしれません。
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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