第13回 ASEAN進出企業のジレンマ: その2 進出意欲はあるものの人材確保が・・・
最近の人事に関するニュースを見ていますと、スイスにある国際経営開発研究所(IMD)の「世界人材レポート」の記事がありました。
優秀な人材をいかに確保するかの能力を示したランキングでシンガポールは16 位。2008 年には2位でしたが、今は順位を10 位台後半に下げています。
この調査は、自国の人材への投資と育成、自国の人材と海外の人材をともに国内にとどめておく力、現在国内にある人材で市場需要を満たせることの3点が重要視されているほか、20 項目以上の指標と各国企業の取締役4,300 人を対象とした意識調査に基づいています。
現在のシンガポールの外国人労働者に対する規制はますます強くなっており、「海外の人材を呼び込む魅力」はあるものの、肝心の「労働ビザ」の取得が厳しくなっている現状があります。
それは最近政府が慌ててシンガポール人の雇用を優先すべく導入しているさまざまな施策に現れています。少々遅れ気味の「自国の人材への投資と育成」であると思います。同調査でもこの点での評価が低く、総合点を押し下げる要因となっています。
最近ASEAN(東南アジア諸国連合)地域に出店する飲食業者は後を絶ちません。弊社がコンサルタントをしている、とある飲食業者は、ASEAN展開を最初に行う場所としてシンガポールを選びました。ASEAN全域で成功するためには、まず洗練された市場で勝負したいとの理由でした。
日本では地方で展開する企業ですが、最近の傾向を見ていますと、日本の大都市である東京や大阪に進出するより、地方からダイレクトにASEANに進出するケースが増えています。
ただしシンガポールに多数ある新規進出支援会社の情報だけを鵜呑みにすると、全くお客さんが来ないエリアを勧められたりするケースもありますので、まずは現地に入り競合店の調査を「自分の足」で行い「これなら行ける」と確信した後に進出形態を考えるべきです。
この会社はシンガポールの飲食業に詳しい会社に設立を依頼されましたが、人事面のサポートは弊社に依頼されました。進出エリアは日本人にはなじみのないエリアでしたが、地元の高所得者層のニーズに応える店作りと味で業績は好調とのことです。
日本人シェフを増強したいとのことで、弊社ではサーチも含めその企業の人事部代行を行い、1人のシェフを採用することにしました。
お給料は5,000 Sドル後半、学歴はないものの手に職をつけてきた方なので、当然就労ビザ(EP=エンプロイメント・パス)は下りると思いましたが、結果は「却下」。却下理由を見てみると、最近は素っ気ない文言ではなく、「過去だったら下りていましたが、今はシンガポール人の雇用を優先する為・・・」と約10 行も記されていました。
今までの理由はNOT QUALIFIEDの一行でしたのでこの点は進歩しました。また取得ためのヒントが書いてあり、要は職位を上げそれに伴った給料を設定すれば下りる(かもしれない)ということです。
もちろんシェフをできる同じ能力のある人間が現地の労働市場にいれば採用するのですが、その能力に見合った人材が市場にいないから外国人を雇うのであって、これは前述調査の「現在、国内にある人材で市場需要を満たせること」とは相反しており、この部分ですでに国家としての「機会ロス」が発生していると却下理由を見て強く思いました。
日本の地方から社運を賭けて進出してきた企業としては、ASEAN展開の出鼻をくじかれた形です。
慌てて外国人労働者規制を行っていく結果、国際競争力も押し下げ、大きく言ってしまえば地域経済全体の成長にも影響してくると思います。なぜシンガポールが最初のASEAN進出地に選ばれたのかを、シンガポール政府としてもよく理解した上で「自国の人材と海外の人材をともに国内にとどめておく力」を付けてほしいものです。
Daily NNA 2014年11月27 日号より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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