第117回: 改正雇用法による変更点(その1:解雇に関して)
2018年の7月20日に日本でもカジノを財源としようという勢いのままいわゆるカジノ法案(実際は「統合型リゾート(IR)整備推進法案」)が閣議で決定されました。
シンガポールのカジノも当初は反対意見が多かったですが、現在でも大きな税収となっており、また国民と永住者の入場を制限しており、一定の規制がかかっている状態です。
日本の場合は入場料を6000円に設定しており、シンガポールの100ドル(約8000円)を参考にしたとも言われています。
そのシンガポールの国民と永住者向けの一日入場料を4月4日から150ドル、年間入場券を2000ドルから3000ドルと50%値上げしました。依存症の話はあまり聞きませんが、国民には「働け」ということでしょうか?
このようにシンガポールではこの最近「法」が目まぐるしく変わります。4月1日から労働関係で大きく変わったことといえば「雇用法」の改正でしょう。
昨年11月20日に改正案が承認され、4月1日に施行されました。周りにも聞きましたが意外と知らない方が多く、「えっそうなの?」的な反応でした。
改正のポイントは、要は簡単に言うと、「従業員側の権利を守る」ことです。特に50歳前後の再雇用率が著しく悪化しており、また解雇に関しても、民族的差別があるとの声がマレー系、インド系のシンガポール国民から出ていることも踏まえ、不当解雇に関しても従業員側に寄り添うような方向性で考えざるを得ない状況が続いています。
経営者側の観点から見ますと、シンガポールでの事業を行う上での一つのメリットとして「解雇のしやすさ」があります。
以前とある商社の解雇のお手伝いをさせて頂きましたが、とにかく理由は一切書かずに、「何月何日付でターミネート(契約解除)します」の一文飲みを記載し、通告期間に基づき賃金を即日支払えば「無条件解雇」が成立していました。
退職金制度はありませんので、その時点で会社としての雇用は終了となります。
筆者が長く滞在していましたタイでは、解雇には「解雇補償金」という制度があり、在籍期間に応じて「補償金」を支払う必要がありました。
またインドネシアでも労働契約解除に関しては労働裁判所の決定が必要ですし、懲戒解雇であっても退職金の支払いが必要という日本では考えられないケースが存在します。
卑近な例としては、バタム島にある日系企業で横領をして懲戒解雇をした社員の家族には罪がないということで労働裁判所が家族に給与額の65%を支払えと言ってきたことです。
担当の人事の方は大変驚いたようですが、国際法というよりはイスラム法に準拠しているとのことをあとから聞かされしょうがなく納得したとのことでした。
このように他国に比べればシンガポールは「解雇のしやすさ」で外国企業も安心して事業を行うことができたとも言えます。
今回の改正法の中で雇用解雇の枠組みが改善されました。
今までは労使紛争が発生した際はMOMが調停役を担っていましたが、今後はECT (Employment Claims Tribunals) 日本語でいう労働調停裁判所に移管され窓口が一本化されました。
また、不当解雇に関するガイドラインも発表されました。
「解雇のしやすさ=退職のしやすさ」で労働流動性が高くより競争力の高い人材を確保できていた良いバランスを保ってきましたが、労働人口の高齢化により、職を失い再就職できるまでの期間がどんどん長くなってきているのは事実です。
ただ、雇用主側も決められたルールの中で運営していく必要性があることから改定になった法律は熟知しなければなりません。次回も引き続き改正雇用法について述べて参ります。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2019年4月11日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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