第135回:フィリピン人を雇いたいんですが
新年明けましておめでとうございます。
本年も「東南アジア人「財」羅針盤を宜しくお願いいたします。
カレンダーの日付の並びが良いことから、昨年の年末から新年1月5日まで9連休を取り日本に一時帰国した駐在員の方々が多かったのが印象的でした。
シンガポールをはじめとする華人が多い東南アジアでは「旧正月」が真の年明けで、今年は1月下旬ということから今の時期に春節の飾り付けで街が「紅く」染まっていきます。
ただ昔と比べて徐々に変わっているのが、春節の期間中でも、地場スーパーマーケットがオープンすることです。
10年前はほぼ全ての商店がしまり、食材を買うのに苦労しましたが、今やかつての日本と似た「利益ファースト」なのでしょうか?
さて、今年からSパス取得の為のハードルが上がりました。
まず最低給与は従来の2300ドルから2400ドルに改定されました。
これも同じポジションで、同じ給料であればシンガポール人雇用を優先すべきという政府の狙いが背景にあるかと思います。
また、最低給与は2400ドルと設定しているものの、実際にはSパス申請時の給与額を20%ほどの上乗せすることが必要で、2800ドル以上を提示しないと認可されない状況です。
飲食業や流通・小売業では人手が慢性的に不足しており、常に募集広告を出し続けています。
とある飲食業の方からは、非常に優秀なフィリピン人がいるのでなんとか採用したいので協力してほしいとの相談を受けました。
基本的に小規模飲食店では日本人店長と3,4名の従業員でシフトを回しています。
Sパス人材を1名雇用するには、前述の給与額だけでなく、QUOTAいわゆる「外国人労働者比率」も考慮することになり、これまで15%だったDRCは今年から13%に引き下げられ、これによりSパス枠を1人採用するのに7~8名のシンガポール人及びPR保持者の雇用が必要となります。
雇用する側としては国籍で選んでいるのではなく、あくまでもお店をしっかり回してくれる能力ある人材を雇いたいだけです。
ただ、現場の声を聞きますと、せっかくシンガポール人を雇用しても、職場での指導を「怒鳴られた」と感じて翌日から出社しなくなってしまった事例がいくつかあります。
逆に「外国人労働者」は職を失う=就労ビザを失うことが一番の驚異であることから、雨露しのげる家を持つシンガポール人よりは相対的にハングリー・スピリッツがあり耐性が強いとのことです。
とはいうものの雇用規制の厳格が進むにつれて、外国人を雇用することが困難になることから、シンガポール人雇用をするしかないのが現状です。
人材募集広告でも「シンガポール人オンリー」と掲載するものの、近隣諸国からの応募者が圧倒的に多く、中には、シンガポール永住権を持っているかのような曖昧な表現で偽装する応募者もいます。
前述の飲食業のオーナーからは、優秀なフィリピン人のビザを取得して「派遣」をしてくれないかと言われましたが、そもそもQUOTAをクリアする従業員数を確保しておりませんのでビザを取得することは不可能です。
ではEPで労働ビザを取得することも考えられますが、その場合給料が4,5000ドル以上になりませんと認可されないでしょうか。
これでは、店舗のオペレーションコストが跳ね上がりお店の運営ができなくなってしまいます。
もちろんこのフィリピン人を超える「優秀なシンガポール人」がいれば間違いなく雇用に結びつくのですが、労働市場にそのような人材がいないので、外国人をSパスで雇用してきたわけですが、それができない為に八方塞がり感があります。
このジレンマをどう乗り越えていくのかが今後の課題です。
それは優秀なロボットでしょうか?
弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年1月16日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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