第145回:外国人労働力の最新情報
シンガポールは6月1日に「サーキット・ブレーカー」(一時中止の意味)を一応解除しました。
打ち上げ的な祝賀ムードは一切なく、またフェーズ1で一般の企業活動は「ほぼ」解除になりましたが、在宅勤務ができる場合は、在宅で勤務しなければならないとなっており、実際は以前のように会社に来て仕事をするという日常には戻っていません。
また各企業にはQRコードがついたSAFE ENTRY表が配布され、入り口に提示をし、社員が出退勤する際にスマホで記録をする必要があります。
ビルの入口でも行う必要もあり、万が一感染者が出た場合の予防措置との位置づけです。
国内の雇用情勢については、悲観的な予測が続いています。
今年中に15,000人から25,000人のシンガポール人の労働者が職を失うと予測するエコノミストもいます。
シンガポールの全人口に占める外国人比率は全人口の3割となっており、世界的にみても高い比率となっています。
その中のほとんどが仕事をするために外国からきている人たちです。
人材開発省より先月、2019年12月での外国人労働者の統計数字が発表されました。
全体の外国人労働者数は1,427,500名となっており、2018年12月の一年前と比べ、3%の増加です。
政府は、あの手この手でなんとかEPとSパスの数を減らす政策を取ってきましたが、EPに関しては、増加率が4.3%で7900人増えていました。
またEP取得が困難なときの次なる手段としてのSパスも増加率は2.3%で5000人増加していました。
EPやSパスを取得できないが、それでも外国人を雇いたい場合は、家族帯同ビザ(DP)を保持している特に配偶者の妻にLOCを取得させ、合法的に勤務させる方法があります。
近年、日系の人材紹介会社が力を入れている「奥様就職セミナー」を開催し、DP保持者で就労意欲のある「奥様」を囲い込みし、EPやSパスが取得できない中小企業の日本人雇用需要に応えています。
そのLOCやTEP(トレーニングEP)の数が激増しており、増加率は8%で2600人増加となっています。
なかなかシンガポール人雇用が進まない飲食業界では、日本人のみならず、フィリピン人やタイ人等他の東南アジア国籍でDPを持っている方にLOCを取得させ勤務させるケースも増えています。
建設現場で働く労働者は主にバングラデシュやインドなど南アジアからの出稼ぎ労働者がほとんどです。
宿舎は「ドミトリー」と言われている一部屋20名近く収容するとこで、3密の環境下で一気に感染が広がってしまった失態があります。
その数は293,300名で全体の外国人労働力の21%、FDW(メイド)を除けば、25%で4人に1人は建設現場で働くワーカー層です。
建設需要が増えてきたこともあり増加率は4.6%で12,500名も増えていました。
現在は隔離政策により、市内へ出てこられないようにしています。
その代わりに、ほぼ全ての建設がストップしており、稼働していないクレーンが市内のあちこちで見られるようになりました。
浮き彫りになったのは、建設に関してはいかに外国人労働力に頼ってきたかということです。
あるシンガポール人の知人が「日本では誰が(どの国の人が)ビルをつくっているのか」と真剣に聞いてきたのを覚えていますが、シンガポールでは手に油や土がつく仕事は外国人労働者の仕事と位置づけており、また市中にいる一般のシンガポール人やホワイトカラーの外国人労働者やその家族とは「別物」扱いしているのも事実です。
シンガポール人の雇用悪化の予測が出ていますが、外国人労働者の代わりに建設現場で働けばいいのではないでしょうか?
弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年6月11日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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