第146回:外国人就労ビザ規制の動向 2020年5月-7月
シンガポールの感染状況は総数では4万件を超えて東南アジアでは、24日の時点でインドネシアに続く感染者数ですが、その98%ほどが建設現場で働くワーカー層で、市中感染とは確実に分けてカウントしています。
市中感染者数はほぼ一桁で推移しており、その結果、小売や飲食店の再開が急遽6月19日の金曜日から解禁となりました。雰囲気的には恐らく6月末頃だろうとの憶測を「いい意味で」裏切りました。
日系企業の駐在員や日本人学校の先生の「入れ替え」は日本独特の3月末の年度末に行う慣例がありますが、その「入れ替え」が国境のほぼ閉鎖でできなくなりました。
入国するためにはMOM(人材開発省)よりENTRY APPROVAL(入国許可証)を取得する必要があります。こちらでビジネスを行っている日本人経営者が日本に帰り、またシンガポールへ戻るために何度か申請をしましたが、全て却下されました。
また弊社の小売店顧客の駐在員の場合はEPの仮許可を3月には取得しましたが、4月、5月と数回却下されました。そして19日のPHASE2解禁に伴い、申請をしましたところようやく認可されました。
認可されても、SHN(自宅隔離)は14日間行う必要があり、またSHN後は自己負担でPCR検査を所定の病院で受け、ようやく仮許可から本申請ができ取得後合法的に仕事ができるようになります。
このように、防疫体制を行いながら段階的に経済活動を再開しています。
さて、このCOVID-19のサーキット・ブレーカー(一時停止)期間中、同措置の情報ばかりに関心がありましたが、外国人就労ビザ規制も今年に入り目まぐるしく変更点がありました。また、EA(人材紹介会社)のライセンス取得・更新に関しましても新たな制約が加わりました。
まずEPを取得する際に必要とする最低給与が現行の3600ドルから3900ドルに5月1日付けで変更になったことです。筆者が人材紹介会社を営んでいた2006年当時はその金額が2500ドルでしたので、この10年ほどで156%も上昇しています。
そうすると例えば日本の大学を卒業した新卒者がシンガポールで仕事をする場合でも3900ドル以上の給与を支給する必要が出てきます。3900ドルといえば日本円で約30万円。日本の大卒の初任給は約21万円。この乖離をよほどのことがない限り日系企業が埋めるとは思いません。
次の変更点は上述EPの規制の抜け道とも言えるSパス取得のための規制です。今年のはじめに最低給与を2400ドルに引上げましたが、それに追い打ちをかけるように外国人労働者比率いわゆるクオータが従来の15%から13%に7月1日から改定されます。
つまり、シンガポール人と永住者の1人分のSパスに占める人数が6人から7人になり、またその最低給与の金額も1300ドルから1400ドルに引き上げられます。
弊社の顧客でもありました、ある飲食チェーンは早々と5月中旬に撤退しました。コロナウィルスによる客数の減少が一番の大きな理由でしたが、雇用面で外国人を雇用できないことも一つの理由に上げられました。最近お店に行きましたが空洞のようになっていました。
最後に、EA(人材紹介会社)のライセンスの件です。雇用に関して、以前より禁止されている年齢や性別や民族による雇用差別をしてはいけないことと、最近力を入れている、国籍による差別(要はシンガポール人雇用を優先)をさせないことをライセンス取得の条件として明文化しています。
また、「差別的な広告を出してはいけない」「全て雇用機会に関してシンガポール人を惹きつける(英語はATTRACT)努力をしなければならない等の条項を盛り込ました。
背景としては今年、シンガポール人の雇用状況が悪化することが予測されており、その対策の一環としての施策で、特に目新しいことではありません。
要は何度も申し上げますが、企業は能力のある人を雇いたいだけですから・・・
弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年6月25日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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