第150回:コロナ禍における雇用情勢と外国人規制
シンガポールの正式名称は「シンガポール共和国」英語名Republic of Singaporeです。共和国の定義は君主(王様等)を置かない国のことで、タイの場合は王様が統治している国なので「タイ王国」です。
シンガポールの場合、行政の長は日本の首相と同じく、リー・シェンロン首相です。その上には行政権を保持しない「大統領」が存在しています。現在はハリマー・ヤコブ8代目の大統領が2017年9月14日より現職を務めています。
さて、ハリマー・ヤコブ大統領が今月24日にコメントした記事がありました。ワークパス保有者(外国人)とシンガポール国民との仕事の取り合い競争がシンガポールにとって分裂問題になりうると警鐘を慣らしました。
あまり大統領から雇用に関することは触れる機会が少なかったので、注意深く記事を読みました。その中で、「シンガポール人が外国人労働者との間で競争原理にさらされており不安を感じているのは理解できる」「シンガポール人の利益は常に最優先される」「雇用主と協力して、シンガポール人の採用もしくは削減に関して公平に扱うことを確実にする」と強いメッセージを発しました。
ここまでの内容は、MOMの高官が壊れたスピーカーのように繰り返していたことと同じです。「シンガポールは海を越えて来る世界からの人々に心を開かなければならないと付け加えました。」あとは多民族国家の重要性を説いていました。要はシンガポール人の雇用を優先するが、外国人にも門戸を開いておく必要があるということです。
外国人の就業規制に関しては、このコラムでも何度もお伝えしてきました。政府は、コロナ禍の前から始まった規制で現在は追い打ちをかけるようにシンガポール人雇用に躍起になっています。
その背景としては、業績悪化の煽りを受けている企業は雇用を維持する為に給与をカットせざるを得ず、また転職先もなかなか見つからない中で、従業員もこれに従うしかない状況があります。
弊社の顧客で、あるポジションの求人広告をJOBS BANKに掲載したところ、603名の応募がありました。それなりの経歴のある方もおり、現状の仕事からの転換したいという人もいましたが、特に失職中の人が目立ちました。
人材開発省のMOMが7月末に発表した統計では、4月から6月までの雇用者数は前期比で約12千人減少しました。失業率もどんどん上昇し3%近くになりました。シンガポール政府もJSS(ジョブ・サポート・スキーム)を通じて雇用助成金を出していますが、それ以上に業績悪化の影響が大きく、特に雇用に関しては、年内の回復は難しいと予測できます。
ある日系の人材紹介会社がEPを取得するための最低給与について、SAT(自己診断ツール)を使い年齢別、大学ランク別に調べました。それによりますと、今までは24歳で有名私立・国公立大学を卒業した場合、3,750ドルでしたが、1,000ドルアップの4,750ドルになる予定です。
そもそも年齢が上の方は既に6,000ドルを超えているのでそれほど旧基準とは変わりませんが、若年層の底上げが顕著になっています。
シンガポール人が現地の大学やポリテクニックを卒業しても就職先がないことが影響していることが推察できます。
しかしながら、若い外国人のEP取得の基準を上げたところで、現地の若年層の雇用がすぐに改善するとは思いません。また仕事のより好みをしなければ、いわゆる3Kの仕事につき、新型コロナが収束し景気が良くなるまで「つなぎの経験」ができ、少なくとも収入を得ることができます。
外国人労働者との仕事の取り合いが国家の分断を生むのではと大統領は危惧しておりますが、企業は能力のある人を雇いたいだけです。海を越えて来る外国人にもフェアーな施策を取ってほしいものです。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年8月27日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
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コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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