第152回:コロナ禍における雇用情勢と外国人規制(その3)

MOMが今月9月1日に、就労ビザの取得に必要な最低月給額の要件がはじめて600ドルもアップし、4,500ドルになるとの衝撃的な内容を発表してからほぼ1ヶ月が経ちました。
1月時点では3,600ドルでしたので、EP取得の条件としては「許容範囲」でした。

それからコロナ禍に入り5月からは3,900ドル、そして今回の9月からの4,500ドルに改定されました。
8月のインフレ率は、前年同月比のマイナス0.4%と物価とは連動していない上昇幅です。

MOMは2020年6月末時点での外国人労働力の発表をしました。2019年の12月と比較して、6%減少しました。

2019年12月と2018年12月との比較では3%増えていましたので、減少基調にあるといってよいでしょう。
但しEP保有者数は2019年12月末比で2%減の4000件の減少となり、EPの数はそれほど減っていない結果となりました。

そこに政府が躍起になったのかどうかは分かりませんが、最低月給額を3,600ドルから4,500ドルに25%もアップしたことにより外国企業のみならず、地場系企業からも疑問の声が出ています。

その声に答えた形で発表の翌日9月2日にリー・シェンロン首相は「外国人労働力を受け入れてきた実績が、国民に多くの機会を生み出し、就労ビザ規制により外国人労働力をシンガポールは歓迎しないという誤解を招かないようにしなければならない」とのコメントをしました。
既にそういうメッセージと捉えている人が半数以上だと思いますが…。

その反面、国民の採用に消極的な企業をリスト化する「ウォッチリスト」政策は続いており、最近摘発された日経企業は労働ビザの新規申請及び更新を1年6ヶ月凍結されました。

企業のユニットを「1」とすると3分の2はシンガポール人にしなさいというもので、外個人雇用比率が3分の1を超えている企業が、どんなに法人税を納めていようと容赦なくレッテルを貼っていきます。

あの手この手で何とかシンガポール人雇用に結びつけようと「北風政策」を次から次へと凄まじいスピードで打ち出してきていますが、シンガポール人に人気のない、油を使う職業(調理、機械エンジニア)はどうしても外国人労働力に頼らざるをえないこともあり、雇用コストがどんどん嵩み、会社の経営にも多大な影響が出ることも懸念されます。

飲食店を経営している友人からは、「仕事がない」と言っている割には、募集を掛けてもシンガポール人からの応募は全くなく、就労意欲のある応募者は全て「外国人」ですが、どんなに素養があっても就労ビザの「枠」がないことから雇えず人手不足が続いている怪現象もおきています。

この飲食店では現在マレーシア人の従業員をSパスで雇用をしています。
そのSパスにも今回また規制が入りました。今年の1月1日に最低月給額が2400ドルと昨年の2300ドルから100ドルアップしたばかりですが、10月1日から2500ドルにまたアップします。

更新は来年5月1日以降からと少しは猶予期間がありますが、クオータは10%つまりシンガポール人とPRの雇用者10名につき1パスということが2021年1月より施行されることが決まっており、サーブをしたくないシンガポール人の応募が皆無な為、このまま行くとお店を閉めるという決断にもなるかもしれないと言っていました。

また、Sパスに関しても、10月1日より、官営の求人求職サイトのJOBS BANKに同職位、同じ給与水準で募集広告を出さなくてはならなくなり、さらに掲載期間は現行の14日から28日と2倍になります。

前号でも述べましたが、某ドラマの「倍返し」さながら、倍々施策が続いており、その結果、企業の撤退事例が続き、ブーメランのように「倍返し」の結果がシンガポール経済にとって戻ってくることによって、大きな打撃にならないことを期待します。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年9月24日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。