第164回:LOC(家族ビザ保持者)の雇用規制開始について
世界中でコロナ禍がまだまだ続く中、シンガポール政府の防疫体制はWHO(世界保健機構)からも評価されており、マスク着用は既にデフォルトになりつつありますが、実際に筆者も含め普通の風邪を引く人が減ってきました。
ML(傷病休暇)を取得するスタッフも弊社では大幅に減り、コロナによる逆効果(?)も出ています。
シンガポールでは新型コロナによる死者は29人となっています。
一方、2020年にデング熱で死亡した人は32人で過去最高となり、コロナでの死者を上回りました。
これはまた日中での在宅勤務が増え、蚊に刺されるケースが増えたことが原因に上げられます。
まさに一長一短です。
さて、コロナの感染が収束しつつある中、人材関連で3月3日に大きなニュースが飛び込んできました。
MOMは、家族ビザ(DP)保持者を雇用する際の要件を厳格化すると発表しました。
DP保持者を採用する企業は現在、LOC(LETTER OF CONSENT <承諾書>)を取得すれば対象者を就労させることができますが、5月1日からはこれを事実上廃止し、就労ビザの取得が義務付けられました。
既にLOCを保持し、その有効期限が残っている場合は、引き続き就労を認めるとのことですが、5月1日以降は有効期限が切れた段階でLOCが取得できなくなります。
5月1日からはSパス保持者が更新する際の最低給与額が2,400ドルから2,500ドルにアップします。
既に9人のシンガポール人もしくは永住権保持者(PR)の雇用がないと新規のSパスは申請できないことになっており、企業にとってはさらに採用が難しくなります。
最低給与額の引き上げは前もってアナウンスされていましたのでそれほどインパクトはありませんでした。
しかしながら、今回の発表は、まさかLOCにまで規制をいれるのかと半ば怒りに似た声がでているほか、既に日系企業で活躍されているDP保持者に大きな困惑を招いています。
日系企業だけでなく、インターナショナル校などで英語教師として働いているLOC保持者のオーストラリア人やイギリス人も数多くおり、衝撃があったのは日系社会だけではありません。
これまでにも現地の日系の人材紹介会社が「奥さま向け求人情報」の広告を掲載したり、「奥さま就職セミナー」を開催し囲い込み戦略を取っている人材紹介会社もあります。
そもそも、なぜ駐在員配偶者向けの求人情報が多いかと言いますと、昨今のEP取得の規制により、日本人を採用することが困難になってきている事情があります。
またLOCに関しては給与の最低基準がなく、学歴等も関係ないことから、日系企業の場合は、日本語を必要とする補助業務として採用されるケースが多くあります。
働く側のマインドとしては、賃金を得ることも目的の一つではありますが、社会的につながっていたいという欲求が強いケースが目立ちます。
実際に駐在員の帯同家族としてシンガポールに来られている方で、職歴・学歴も立派な人も多いですし、子育てが落ち着いたので職場に復帰したいという方も少なくありません。
あとは就労している証明があると日本人学校のPTAの役職から免除されるということもあり、実際弊社でアシスタントとしてサポートをして下さったパートの方にはこれを目的として就労されている方もいました。
LOCで勤務している人たちは全体のWORKFORCEの1%です。
何故その1%にまで規制を入れなければならないのかは大きな疑問です。
就労を希望するDP保持者は、5月1日からLOCの代わりにEP(もしくはSパス)を取得してくださいとアナウンスしていますが、その就労ビザが取得できないからLOCを取得している現状を当局は全く理解していないようです。
LOC保持者がシンガポール人の雇用を奪っていることはほとんどありませんし、また日系社会で言えばクリニックの受付や日本語補習校の先生などLOCで従事されている方に影響が出てくるのは必至です。
その結果、シンガポールからの撤退につながるケースも出てくることでしょう。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年3月18日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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