第169回:第2期に戻る中での人事施策(その2)

5月31日の16時からリー・シェンロン首相の演説がありました。

新型コロナウイルスの影響が続く中、これまでの演説はどちらかというと、規制の導入や強化などマイナスの内容が多い印象がありましたが、今回は事前の報道で「規制が緩むのでは?」といった楽観的な雰囲気がありました。

日系社会が一番気にしているのは、就労ビザ保有者の入国が「いつ」認められるかでしたが、残念ながら首相の口からこの話が出ることはありませんでした。
ただ、このまま市中感染が減少すれば、さまざまな規制を緩和すると表明しました。

日本は引き続き「新型コロナの高リスク国・地域」のカテゴリーに入っており、入国許可証の新規申請の受け付けが停止されています。

一方、弊社の顧客の家族で中国在住者の入国をサポートしましたが、すぐに入国が認められました。
隔離も必要がなく、到着時の空港でPCR検査を受けた後、陰性結果が出るまで自宅待機となりました。

日本からの渡航者に対する規定と「雲泥の差」が生じています。
筆者を含めてシンガポール在留邦人の間でも日本への一時帰国を希望する人が増えていますが、今の状態では気軽に戻れないため、「足止め感」は否めません。

6月に入っても、政府が定める感染対策の「第2期」は続いております。

在宅勤務を含むテレワークは強制ではないものの「デフォルト(基本的な状態)」となっており、リモートで働くことを余儀なくされています。
日系企業ではあまり見かけませんが、「在宅勤務手当」を支給している例も見受けられます。

エアコンやインターネットは自宅で使っているため、その見合い分として月100Sドルを支給しているケースや、6月13日まで店内飲食ができない不便さを補完する名目で、テイクアウトした食事のレシートを提出すれば150Sドルを支給する事例もあります。

シンガポール人の85%がテレワークを好む傾向があることは、いくつかの調査でも明らかになっており、さらに給与の他に「手当」が出るのであれば、政府が在宅勤務を進める中で従業員のモチベーションファクターになります。

では、日系企業がそこまでして「手当」を出すかというと、「仕事をサボっている」「動画投稿サイトを見ながら仕事している」「電話にでない」などマイナスイメージが先行していてあまり前向きではない傾向があります。

ある韓国系企業の場合は、勤務時間中はテレビ電話システムを常に開いた状態にしており、席を外す場合は専用システムに出退時間を入力し、徹底管理しているケースもあります。

在宅勤務に関しては、米国の経営学者、ダラス・マクレガー氏の「X理論・Y理論」が該当するかと思います。

X理論は、「人間は本来怠け者で強制されないと働かない」というものです。
上述の韓国企業がこれに当たります。

一方、在宅手当を支給している企業は、働く環境に満足していれば「人間は自ら進んで積極的に働こうとする」というY理論の下で仕事の成果にフォーカスしている例です。

日系企業の場合は、Yにしたいが、基本はXとしてコミュニケーションを取る名目で1時間おきにテレビ会議を入れるなどしつつ、業務管理をしているところが多いのは確かです。

さまざまな制限がある中で、在宅勤務をしている従業員の仕事に対するモチベーションをいかに維持させていくか。
新しい働き方に即した人事施策を構築していくことがニューノーマル時代には必要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年6月3日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。