第173回:シンガポールへの入国規制緩和
8月6日にシンガポール政府より重要な発表がありました。
9日にはナショナルデー(建国記念日)の祝日があり、3連休を目前に控えた時点での発表でした。
発表には、新型コロナウイルスの感染対策の段階的な規制緩和が盛り込まれました。
「ワクチン接種したかどうか」がポイントになっています。
国内では一時期、大きなクラスター(集団感染)が発生し、感染者数が急増しました。
こうした状況を受けて政府は店内飲食を禁止しましたが、ワクチン接種が進んでいるのに伴い、今回の規制緩和に至りました。
ワクチン接種完了から2週間以上経過している人を対象に、10日からレストランなど飲食店での店内飲食が解禁されました。
同一グループの人数は最大5人までとなっています。
12歳以下の未摂取者も同一世帯である場合に限り、接種済みの人と同じクループでの店内飲食が認められました。
ワクチン未摂取者の場合、ホーカーセンターやコピティアムと呼ばれる伝統的なコーヒーショップに限って店内飲食が可能になりました。
ただ同一グループの人数は最大2人となっており、接種完了者向けの規定と「区別」されています。
欧米の政府も、ワクチン接種証明がないと行動を制限する方策を打ち出しており、一部では「差別」だと反対するデモが起きています。
どの国も早く感染を抑え、経済活動を再開させたい一心だと思います。
シンガポール政府は、建国記念日の前に規制緩和を示すことで、国民に一種の「お祝い」を与えた感があります。
6日には、人材開発省から入国制限の緩和に関する発表もありました。
日本など感染リスクが高い国・地域から入国する就労ビザ(査証)保有者について、ビザとは別途入国に必要な「入国許可証」の申請受け付けが10日に再開されました。
ワクチン接種完了者であることが入国の条件となります。
ワクチン接種完了日から2週間以上経過した人を対象と、それ以外の人が入国できないのは、レストランでの店内飲食の措置とも連動しているように思えます。
海外からシンガポールへの入国を保留されている就労ビザの仮許可(IPA)保有者からはこれまで、弊社に対して「(入国受け入れ再開は)まだか」と連日のように問い合わせがありました。
従来は「政府からの発表があり次第ご連絡いたします」と決まり文句を繰り返すだけでしたが、今回の発表で、やっとこうした問い合わせに対応できるようになりました。
申し込みが殺到するのではないかと危惧し、弊社で連休明けの10日早朝に複数の方の入国申請を行いましたが、申請者全員が希望日通り入国できる運びとなりました。
まだワクチン接種の2回目を終えてない方は、またしても保留状態になりましたが、いずれにせよ入国がやっとできるようになったので、一安心しているかと思います。
日本では職域接種が進んでいるものの、地方自治体に依存するなどして政策にちぐはぐ感があります。
職域接種でも社員やその家族に「強制」はしておらず、社員全員が接種しているとは限りません。
今後はこうした日本での接種の「温度差」がシンガポール入国時の課題になるかもしれません。
リー・シェンロン首相は8日、建国記念日の国民向けメッセージで、就労ビザを取得してシンガポールで働く外国人にオープンであることが、海外から投資を呼び込み「雇用」を増やすことにつながると演説しました。
ただ外国人人材の「量」ではなく「質」を調整する必要があると付け加え、英語で「as we must(やらなければならない)」と強調していました。
政府は外国人受け入れ政策を年々厳格化していましたが、今回の首相の発言で外国人受け入れにオープンであるべきだという内容が久々に示されました。
その背景には、このまま外国人の流入を制限すればシンガポールの経済・社会の先行き危うくなるという危機感の現れかと思います。
あとは、シンガポール在留邦人が日本に一時帰国した後、シンガポール入国時にワクチン接種証明を提示することで「自宅隔離」が可能となれば、ホテルなどでの隔離措置にコストをかけずに済みます。
筆者のような永住権保持者と違い、駐在員の方はなかなか帰国できないストレスが相当たまっているようです。
とにかくこれ以上感染が拡大せず、さらなる緩和を期待したいところです。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年8月12日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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