第178回:国境を開きつつあるものの・・・
シンガポールでは新型コロナウイルス感染者数のほとんどが無症状や軽症とはいえ、1日当たり新規感染者数は19日に3,994人となり一向に減る気配がありません。一方、東京はピーク時には同感染者数が5,000人を超えていましたが、19日では36人と急減しました。
シンガポール政府は感染拡大を抑制するため、検査体制を強化しています。各家庭に即時抗原検査「ART」のキットを6セット配っており、症状が出たと思ったら各自で検査することを奨励しています。飲食業や流通業では、従業員を対象に毎週検査を実施していますが、実際には精度はそれほど高くはなく、「疑陽性」が出ることがあります。
筆者も症状は全くなかったものの、一度どんなものか試したく検査してみました。左右それぞれの鼻腔に綿棒を入れて検体を採取した後、試薬液の中に入れます。その試薬液を検査キットに4滴垂らすと、10分ほどで判定が出ます。陰性であればキットの「C」と書かれた部分に赤い線が表れます。もし「C」だけでなく「T」の部分にも線が出た場合は「陽性」となります。
最近、弊社の取引先の方の配偶者が、鼻水が止まらないとのことでARTを行ったところ陽性反応が出て、家族全員大騒ぎになりました。疑陽性の可能性もあるため、病院に行き精度の高いPCR検査を受けるよう助言しました。
シンガポールは感染者数が高止まりしているものの、政府が国境を徐々に開いてく傾向がうかがえます。
新型コロナウイルスのワクチン接種完了者を対象に隔離なしの入国を認める枠組み「ワクチントラベルレーン(VTL)」では、まずドイツとブルネイを対象に運用を開始し、感染者がほとんど出なかったことから、19日には対象国が拡大されました。カナダ、デンマーク、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、イギリス、アメリカの欧米8カ国です。
韓国は11月15日からワクチントラベルレーンが適用されます。日本の感染者数は減少傾向にありますが、まだワクチントラベルレーンの対象国にはなっておりません。シンガポール政府は新型コロナの流行下で、世界の国・地域を「カテゴリーⅠ~Ⅵ」に分けて入国制限を実施しています。
日本は現在「カテゴリーⅡ」で、ワクチン接種の有無にかかわらず7日間の隔離措置が必須となっていいます。シンガポールは欧米諸国を中心に対して門戸を開きつつある一方、アメリカの疾病対策センター(CDC)は、シンガポールへの渡航警戒レベルを最高水準の「レベル4」に引き上げました。「レベル4」に位置づけされている国には、ボツワナやマレーシアも含まれます。
シンガポール側はアメリカに対して入国規制を緩和しましたが、アメリカ側は渡航の警戒レベルを最高に引き上げたことで「相思相愛」ではなくなっています。日本はアメリカの措置に追随する傾向がありますので、シンガポールが入国拒否の対象にならないことを願いますが、まずはシンガポールの感染状況が早く落ち着くことが必要です。
観光業に携わる方々を最近面談しましたが、やはりツアーガイドの仕事は皆無で、来年も見通しが立っていないとのことでした。イベントでの司会や通訳で活躍された方も、オンライン上での通訳はあまり盛り上がらず、商談が成立するケースは少ないと嘆いておりました。
資源の乏しいシンガポールでは人口が減ってきていることもあり、「人」が海外から入ってこないと、内需だけでは成長が鈍化していくことが目に見えています。飲食店の店内飲食では1グループ当たり2人までと人数制限が設けられており、苦しい経営状況が続いています。
市民にも政府にも「コロナ疲れ」が出てきており、少しでも経済が正常化に向かってほしいと多くの人が願っていますが、正念場を続いています。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年10月21日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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