第187回:ついにポイント制導入
前号掲載日の2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を始めました。この2週間で世界情勢が変わってしまった感があります。
「新型コロナウイルスとの闘い」はまだ予断は許さない状況ですが、少しずつ先が見通せるようになる中、世界全体はまだ暗い雲に覆われるような気がします。
最近は物価高が進行しています。昇給率を3%で上げても実質賃金は下がってしまうため、企業は会社の収益状態を鑑みながら昇給率を上方修正することも考慮しなければなりません。
前号では、EPの新規取得に必要な最低給与が現在の月4,500Sドルから9月には5,000ドルに引き上げられると述べました。Sパスも現行の2,500ドルから9月には3,000Sドルにアップします。更新は来年9月から適用されます。
給与の額面通りに申請しても認可される可能性はごくわずかです。現在もSパスで2,500Sドルでは許可が下りず、実質3,000Sドル以上でないと取得できなくなっています。EPに関しては、40代で8,500Sドル近辺でないと更新も難しい状況です。
特に40代の現地人の専門職・管理職・幹部・技術者(PMET:Professionals, Managers,Executives and Technicians)での就職率、再就職率が著しく悪化しており、そのポジションを外国人が奪っていると「錯覚」する人が少なくありません。
こうした状況を受けて、さらなる北風政策を取らざるを得ないという政府の思惑が感じられます。外国企業の誘致や優秀な外国人労働者の受け入れを積極的に行ってきたシンガポールも、現地人の雇用促進のためにあの手この手と外国人雇用規制を強めていますが効果があまり出ていないのが現状かと思います。
こうした状況を受けてか政府は今月初旬、これまで選考基準が不明瞭だったEP申請に「ポイント制」を導入すると発表しました。
「給与(C1)」「資格・学歴(C2)」「多様性(C3)」「現地雇用(C4)」の4項目を基準とし、評価の度合いに応じてそれぞれ最大20ポイントが付与されます。来年9月から適用されます。
給与に関しては、現地人の専門職の年齢層に応じた給与額の上位10%に相当する水準でないと20ポイントもらえません。外国人の給与が現地人の専門職より低い場合はポイントが付与されないということでしょう。
資格・学歴については、「トップクラスの教育機関(Top-Tier Institution)」の学位取得者で20ポイントとなっています。MOMのサイトで確認すると、トップクラスの教育機関は審査中で、3月中旬に詳細を発表すると明記されていました。
日本の大学では国立で東京大学、京都大学、東北大学、東京工業大学、私立では慶応義塾大学か早稲田大学が入るかもしれません。その他の大学は10ポイント、それ以外は0ポイントになります。
多様性は、例えば日本人が多数を占める企業はポイントが付与されないことになります。このカテゴリーは国籍の多様性を求めていますが、多様性が専門職の雇用促進に役立つかどうかは疑問です。
政府は「北風政策」を進めてきましたが、ここでEP取得の基準をポイント制にすることで、何とかして現地人専門職の雇用促進につなげたいとする強い意向を感じます。果たして効果が出るかどうか、9月からの動きを注視していきます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年3月10日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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