第191回:退職者が出た後の職場のフォローアップ
シンガポールは5月1日(日)がメーデーの祝日で2日(月)が振り替え休日となり、3日(火)もハリラヤ・プアサ(イスラム教の断食明けの大祭)の祝日でした。
完全週休2日制(土、日)の企業の場合、4月30日から5月3日まで4連休となりました。
イスラム教徒にとっては、ハリラヤ・プアサは日本でいえば正月に当たる祝日で、民族衣装を着こなしたマレー系の人が各家庭を回ってお祝いをします。
この4連休で新型コロナウイルス対策の入国規制が緩和されたマレーシアやタイを訪れた人も多かったようです。
タイ・プーケット行きの航空券は通常の数倍の価格でないと手に入らないほど高騰してしました。それだけ海外の繰り延べ需要がたまっており、これまで旅行を我慢していた人が殺到したのでしょう。
海外旅行はまだ先と考えている人は、国内でショッピングや飲食を楽しみます。ショッピングモールへの入場時に提示をしていた接触追跡アプリ「TRACE TOGETHER」の利用は4月26日に廃止され、飲食店にグループで入店する際の人数制限もなくなったことから集客が増えました。
5月1日に西部のショッピングモールへ混雑を避けるため午後2時ごろに昼食を取りに行きましたが、どこの店も長蛇の列で入店を諦めました。
店内をのぞくと、明らかに集客数に対して対応できる従業員の数が少なく、「店が回っていない」印象を受けました。
コロナ禍前から飲食店の人手不足は既に問題となっており、2019年には某有名イタリアンレストランが「従業員を確保できないため休業します」と貼り紙を出して撤退しました。
さらにコロナ禍が2年以上続いた結果、飲食業界では従業員を削減するなど労働力を調整せざるを得ない状態が続きました。
足元では、シンガポールは外国人観光客の受け入れを始めており、業況はコロナ前の水準に戻りつつあります。
ただ従業員1人当たりの労働負荷が高くなると、それに見合った賃金が与えられなければ「辞める」選択肢を選ぶ従業員も増え、「人手不足」も深刻化します。
弊社の顧客である飲食店運営会社では、4月に9人から退職届が提出されました。数人に慰留を試みましたが、「既に他社への就職が決まっている」ということでした。結局は雇用契約に基づき、退職1か月前に退職届を提出して会社を辞めてもらうことになりました。
人望の厚い社員もいたので、その後は芋づる式に部下3人からも同時に退職届が提出されました。このようにどの飲食業者でも、今まで維持していた人員体制が一気に崩れる可能性があります。
ただし辞めたいスタッフをいつまでも慰留するなどして退職を引き延ばしても、既に本人のモチベーションは低下しているため、経営者は考え方を切り替える必要があります。
弊社はこの顧客に対し、5月度給与から既存スタッフへの昇給・昇格を反映させることや、市場相場に見合った給与で求人広告を出し、より良い人材の獲得を目指すことを勧めました。
そのために会員制交流サイト(SNS)を活用するなどして求人広告を積極的に展開したり、毎月中旬の金曜日と土曜日に「ウォークイン・インタビュー」を実施し、新規従業員の確保を進めることを提案しました。
経験値が高い従業員の退職は打撃ですが、経営体制を維持するためには既存社員への待遇の見直しながら新規従業員の入社後のフォローアップを行い、新旧の融和が図ることが重要です。
今まで「社員はずっと当社にいるだろう」と考えてい経営者には、「いつまでもいると思うな親と社員」と思ってもらい、発想を転換するとともに、退職者が出てしまった後の職場のフォローアップを積極的に行っていく必要があります。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年5月5日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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