第199回:MOMが発表した新政策(その1)
シンガポール政府は8月24日、新型コロナウイルス対策の緩和を発表しました。一番驚いたのは、入国規制の見直しです。ワクチン接種を完了していない人でも、出発前に新型コロナ検査を受けていれば、入国後7日間の待機措置が同28日深夜から不要になりました。
弊社の顧客でワクチンにアレルギーがある方がおり、ワクチン接種免除の申請を数回行いました。何度かリジェクトされた後にようやく認可が下りましたが、もっと早く規制が緩和されていれば、申請の必要はなかったかもしれません。
また29日からは、公共交通機関や医療施設などを除いて屋内でのマスク着用義務が撤廃されました。ただショッピングモールをのぞいてみると、一部を除き大多数の人が、引き続きマスクを着用していました。
弊社の現地スタッフに聞いたところ、マスクは既に顔の一部のようになっているし、MRTなどの公共交通機関に乗るときは着用する必要があるので、外す方が面倒と言っていました。
こうした動きをみると、シンガポールは他の東南アジア諸国と同様、新型コロナをエンデミックとして扱う方向に切り替え、経済優先の姿勢を取っています。また、マスク着用義務の撤廃に合わせたように、MOMが29日に衝撃的な政策を発表しました。
新しい就労ビザ「海外ネットワーク&専門知識(ONE)パス」の導入です。月収3万Sドル(約297万円)以上の外国人に発行するビザとなっています。しかし少なくとも私の周りでは、「年収」3万Sドル稼いでいる人はいますが、「月収」3万Sドルは見当たりません。
またONEパスの特徴として、同時に複数の企業で働いたり経営に携わったりできる点が挙げられますが、大きなメリットを感じません。海外の優秀な人材を獲得する政策の一環として、来年1月1日からONEパスの申請受け付けを開始するとのことですが、一体どれだけの人が申請するのか見ものです。
折しも9月1日からは、EPの新規取得に必要な月給給与の最低額が、従来の4,500Sドルから5,000Sドルに引き上げられます。かつては2,500SドルでEPが取得できたことを考えると、過去10年で最低額が2倍に上がったことになり、「ムチ」の政策が続いているといえます。
ただ今回は、「ムチ」だけではなく「アメ」も提供する施策がありました。官営の求人求職サイト「マイキャリアズフューチャー」での求人掲載について、全てのEP申請者を対象に9月1日から掲載日数が従来の28日間から14日間に短縮されます。
以前は14日間でしたが、2020年10月から28日間に延長されていたため、今回の発表で「元通り」になります。そもそもこの官営サイトは、シンガポールに赴任する駐在員にとってEP取得の登竜門のような存在です。
企業はEP申請前に、赴任者と同じポジション、同じ給与待遇の求人を国民、永住権(PR)保持者向けにサイトに掲載することが義務付けられています。国民にも外国人と同じような雇用機会を与えることが「フェア」という考えが背景にあります。
しかしながら、求人に応募する国民の経歴が「バーテンダー」で、募集している職種は「プロジェクトマネージャー」、月給が1万Sドルとなると、元バーテンダーに務まる仕事とは言い難いでしょう。こうした方策が雇用機会を均等に与える「公平さ」なのだと勘違いしている感は否めません。
また求人を14日間掲載しても応募者がなければ、28日間たったところで状況は変わらないでしょう。赴任者にとってこの28日間、EP申請ができないので「待機時間」となっていました。MOMが発表した新政策や改変の話は、次回に続きます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年9月1日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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