第20回 ASEAN進出企業のジレンマ:その8 就業規則の重要性(5)
先般シンガポール在住10年以上のお客様より打ち合わせの連絡を頂きました。
ヘビースモーカーの方で会談場所は、昔からラッフルズプレイスにあるGolden Shoeホーカーセンター(屋台の集合体)の喫煙席を選びました。
朝9時から商談が始まり、メモを取るためにかばんからノートを取り出しました。会談はほぼ約30分で終わり次のアポが有るため足早でその場を去りました。
会社には1時半頃食事を済まし戻ってきましたが、かばんをそのホーカーセンターに置き忘れたのを急に思い出し慌てて取りに行きました。
部下の一名は「もうないんじゃないんですか?」と悲観的でしたが、そのバックはそのままの姿で喫煙コーナーの椅子の上に置いてありました。
基本的にこちらのホーカーでは食べる場所の「場所取り」が重要で机の上にティッシュや名刺を置いたりするのが一般的です。
椅子にかばんを置いておくと盗まれる可能性も高いことからあまりしませんが、そのかばんには価値を感じなかったのか、それともココは誰かが「席予約」している場所という事で無視されていたのか、とにかく自分に関係ないことは「無干渉」のシンガポールの一面を見ることが出来ました。それとも民度が高い証拠かもしれません。
さて、今回は退職に関わる事項について述べてまいります。
シンガポールでのビジネス環境は様々な調査機関が発表している通り世界の中でトップクラスに入っています。政府の透明性・汚職の少なさに加え、「解雇のしやすさ」が理由の上位に位置しています。
昨年外資系に入社した友人は勤務4ヶ月目で「プロジェクトが中止になった」との理由で解雇されてしまいました。外資系の場合はそもそも会社ではなくジョブとの契約を履行するのが主で、仕事がなくなれば労働契約解除となります。
日本の場合は整理解雇や懲戒解雇以外の解雇は認められておらず、解雇したいひとを窓のない部屋に押し込めたり、地方や関連会社に左遷させるなどの陰湿な社内的な地位を奪うことにより自主的に退職願いをださせるようなことをしています。早期退職制度というのも日本的解雇なのかもしれません。
改正雇用法が2014年4月1日より施行され解雇についても今までの経営者側の無条件解雇にある程度の「規制」が入りました。
月額基本給4,500ドル以下の専門職・管理職に対して、同じ雇用主のもとで勤続1年以上過ぎた場合、新たに病気休暇や不当解雇に対する保護を目的としてある程度理由付けをする必要が出てきました。
就業規則上織り込む事項としては、必ず通告期間を設定することです。業種、職種により異なりますが一般的には1ヶ月ノーティスです。
つまりある程度の理由「プロジェクトがなくなった」等の理由付けと共に「通告」を文書で出す事が重要で、理由については口頭で通達し、書面には残さない方が無難です。
一方、会社側が1ヶ月ノーティスということは従業員側も1ヶ月ノーティスが権利として認められており、1ヶ月の給料を支払う事により「即日退社」が可能です。
その文面は英語の表現で「notice or salary-in-lieu」とあり、「サラリーと引き換えに」という意味が込められています。ヘッドハントされた有能な社員がヘッドハント先より1ヶ月分の給料を返納させて「即日勤務」させることも可能です。最
近ではあまり見かけなくなりましたがとある日系企業がチームごと競合に抜かれて憤慨していましたがこれも就業規則に準じた行動ではありましたのでシンガポール風転職術なのでしょう。
Daily NNA 2015年3月12日号より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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