第200回:人材開発省が発表した新政策(その2)
出張と休暇を兼ねて3年ぶりに日本に帰国しました。航空券は9月7日発の東京便を8月中旬に取りました。その時点では日本入国時に「出発72時間前のPCR検査」を受ける必要がありましたので、近所のクリニックで検査を予約しました。
その後、日本政府は水際対策緩和の一環として、9月7日から新型コロナウイルスワクチンの3回接種を条件に「ようやく」PCR検査を免除したため、シンガポールで検査を受けなくてよいことになりました。
日本入国時には日本政府の公的アプリ「My SOS」を事前にインストールをし、ワクチン接種証明書や誓約書を登録しなければなりません。9月6日時点では「出発72時間前PCR検査」の入力画面がまだ「青」にならず、入国がスムーズになる「お墨付き」が未完でしたが、7日になってやっと「青」になりました。
シンガポールを含む東南アジア各国の入国規制は既にかなり緩和されていますので、日本との水際政策の違いが際立ちました。観光客の復活に伴い、シンガポールへの入国者数は増えています。
ただコロナ禍で厳しい入国規制を行っていたこともあり、一時外国人労働者が入国できず、専門職・管理職・幹部・技術者(PMET)を中心にシンガポールを離れた外国人も見られたことから、MOMは海外人材を呼び戻す政策を発表しました。
その一つが月3万Sドル以上を稼ぐ外国人を対象に、2023年1月1日から新就労ビザ「海外ネットワーク&専門知識(ONE)パス」の発給を決めたことです。有効期間が5年間であることや、同時に複数の企業で働くことができることに加え、配偶者にもシンガポールでの就労を認めるという「メリット感」を出しています。
一般的には月額3万Sドルを稼いでいる人といえば、弁護士や会計士といった「士業」の方や、金融機関、機関投資家の関係者などを想像します。ただ、そうした人が「メリット」を感じるかどうかは微妙かなと思います。複数の企業で働くことはできますが、そもそも一つの仕事で月収3万Sドルを稼いでいるため、他の企業で働く必要性はそれほどないかもしれません。
配偶者も「社会的所属への欲求」がある場合は就労するかもしれませんが、ビザ取得者が月収3万Sドルを稼いでいれば、「パンを食べること」には困りませんので、この「メリット」もあまり意味がないと感じます。
また、PMETの「T」を指すハイテク分野の技術者に対しては、23年9月からEPの有効期間従来の2~3年から5年に延長することが決まりました。IT人材の需要は引き続き逼迫しており、シンガポール国内でのヘッドハントなどはあるものの、絶対数を増やすには、国外から登用するしかありません。
政府は人材確保に向けて何か慌てているような印象も受けます。「アフターコロナ」に向けて各国・地域間で人材争奪戦が激しさを増していることや、国内の人口減少を受けて危機感を感じているのは分かります。
ただ、月収3万Sドルの「マイナー」な人材を呼び込むよりは、年収6万Sドル(月収5,000Sドル)の「メジャー」な人材をより受け入れる方が、シンガポールで本当に働きたい人への「門戸開放」にもなるのではないでしょうか。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年9月22日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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