第206回:年末賞与の付与について(その2)
先日インドネシアの地方都市に行く用事があり、約3年ぶりに同国の地を踏みました。地方路線にもかかわらず飛行機は満席で、機内を見渡す限りでは新型コロナウイルス禍が収まった印象がありました。現地の街の風景は以前とほぼ変わらず時が止まっているような感じで、この3年間は何だったのかと思った次第です。
コロナ禍が落ち着き隔離なしの自由な往来ができるようになりましたが、シンガポール在住者を含む入国全員は「SG ARIIVAL CARD」の申請が必要です。弊社の社員の家族は海外旅行からの帰りに申請を忘れ、入国審査の自動化ゲートを通れませんでした。海外との往来はまだ完全には「自由」にはなっていないと感じます。
さて、2022年は残りわずかです。12月には賞与を支給する企業が多くあり、「月給×月数」というのが基本形ですが、支給方法はさまざまです。
ある日系企業では現地採用社員のEP(専門職向けの就労ビザ)を更新するため月給を大幅に上げざるを得なくなり、ボーナス分を「先払い」することで雇用を維持しています。本人が途中で辞めてしまうリスクはありますが、年齢的にも他社に転職するリスクが少ないことや業績が好調であることから、こうした方法が通用しています。
また他社でも従業員のEPを維持するために、「調整手当」のような形で月給補助を賞与の代わりに支給をしています。この企業の人事担当者が12月のボーナス支給時に悩んだのは、「調整手当」を含めた金額を賞与支給額とするのか、あるいはあくまでも月給のみとするのかです。
さらに別の企業では、月給とは別に通勤手当、食事手当、児童手当をアローアンス(手当)として支給していますが、賞与にはこれらを含めていません。シンガポール政府は企業に対し、13カ月目の給与とも呼ばれる年間賃金補助(AWS)を12月に支給するよう推奨しています。これは同国の個人所得税の仕組みと関係があります。
個人所得税の申告対象期間は1~12月で、翌年4月頃までに申告する必要があります。1~12月分の基本年収に加え、これを補助するAWSを個人所得税の納税分として取っておいてほしいという思惑が政府にはあるようです。
AWSに関しては、各社の社員規定を見ると「必ず支給する」と書いている場合と、「会社の業績による(自動的に支給されるとは限らない)」と明記している場合に分かれます。支給日に在籍していれば試用期間中でも支給されるケースや、12月に辞表を提出した場合は支給されないケースなど会社の規定によってまちまちです。
ある企業では、業績が回復してきたこともあり、「今年は賞与が支給できることをみなで喜びましょう!」と社員に熱いメッセージ送りつつ支給しました。逆に業績低迷している某IT企業は、AWSの支給がなく社員の士気は下がり続け、オフィスも中心部から離れる予定です。こうしたケースでは社員の離職も進むことが予測できます。
従業員にとってボーナスに関する事項は重要です。経営責任者は、従業員の士気を高める上でも支給対象者、支給すべき項目、支給日などを就業規則で明記し、労使双方が12月になっても慌てないような体制を整備しておく必要があります。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年12月29日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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