第210回:ダウンサイズにおける注意点

シンガポール政府は先週、新型コロナウイルス感染症に関する行動規制をほぼ撤廃しました。

13日から公共交通機関でのマスク着用義務がなくなり、筆者も通勤時にマスクを外してMRTに乗ることができました。最長21日間の隔離といった厳しい入国制限などで経済が停滞した「失われた3年」も、過ぎてみれば短かったような気もします。

政府が経済を回す方針にかじを切り、通勤時の制限がなくなっても、在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリット勤務を継続する企業は多そうです。それに伴い大きなオフィススペースを必要としない企業も出てきています。

こうした中、コロナ禍前に事業を拡大していた企業では、オフィススペースや人員の面でダウンサイズを考えているところがあります。コワーキングスペース(共用オフィス)への移転はメジャーな選択肢として目立ちます。

当社の顧客企業でもダウンサイズの決行を決意し、3月に共有オフィスに移転するところがあります。コロナ禍前にはかなり広いオフィスを借りていましたが、今は大きなスペースが不要になったのです。

当時は日本人EP保有者やLOCを取得して働く家族ビザ保有者などを数多く登用していましたが、ビザ要件の厳格化で日本人社員を継続的に雇うことができなくなったことが背景にあります。

人員の減少や在宅勤務の増加でハード(物理的なオフィス)面のダウンサイズを行う分には大きなリスクは伴いません。しかし、ソフト(従業員)面のダウンサイズには細心の注意を払う必要があります。

シンガポールで従業員を解雇する場合、経営者は雇用契約書に記載された通告期間に準じて、契約解除を本人に通達することができます。その際、解雇通告書には「解雇理由を明記せず、通告日と最終勤務日の日付のみ」を書くことを、筆者はおすすめします。

解雇理由については口頭で伝え、書面では残さないほうがいいでしょう。解雇理由を明記してしまうと、内容によっては不当解雇とみなされるリスクが高まるためです。MOM(人材開発省)から査察が入るケースもあります。

21年11月からは、従業員数が10人以上の企業がダウンサイズの整理解雇を行う場合、解雇から5営業日以内にMOMに報告することが義務付けられています。それ以前は6カ月間に5人以上を整理解雇する場合が対象でしたが、厳格化されました。

この場合の整理解雇とは、従業員の総数を削減することが目的の契約解除を指します。同じポジションで別の人を雇用することが想定される懲戒解雇や、業務のパフォーマンスが著しく低いことを理由に解雇する場合は含まれません。

シンガポールの法令は目まぐるしく変更されるので、最新の法令に準じた就業規則の整備を行う必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年2月23日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。