第218回:実年齢と仕事年齢

シンガポールの2022年の合計特殊出生率は過去最低の1.04となりました。算出方法は、1人の女性が一生に産む子供の平均数で計算されます。

出生数は21年の3万8,672人から22年には3万5,605人へと7.9%減少しており、この「数」の減少が同時に「率」の低下を引き起こしています。背景には、晩婚化で初めて子供を産む年齢が32歳と上昇していることなどがあります。

日本も急激な少子高齢化が進んでいますが、シンガポールの場合は「移民」つまり「労働力の輸入」により、単純労働に関しては労働力人口が減らないように調整しています。ただ政府は全体的に自国民の比率が減っていくことに危機感を覚えています。

少子高齢化でもっとも影響を受け深刻なのは「労働力人口」の減少です。労働の意思があり、労働可能な能力を保持している15歳以上の人で、専業主婦、中学生以下の生徒、老齢者などの「非生産人口」を「生産人口」から引くことで算出できます。

シンガポールでは、15歳から24歳までの労働力人口は21万7,000人で、全体の12%弱と低水準です。少子高齢化により将来的には10%を切ることが予測できます。高齢化が進む中、定年年齢は22年7月に63歳に引き上げられました。いずれは65歳まで引き上げる予定です。

再雇用制度がありますので、定年後、即退職・解雇とはなりません。再雇用の条件はいくつかありますが、要は健康上問題無く、仕事のパフォーマンスが良ければそのまま再雇用となります。当地のPR(日本人永住権)保持者の年齢層は全体的に上がっている印象があります。その子どもとなると第2世代はまだ学生で「生産年齢」には達していないケースが目立ちます。

EP(高技能労働者向け就労ビザ)の最低給与額が引き上げられる中、同ビザで日本人を採用できない企業はPR保持者でその雇用を埋めたいという要望があります。ただコアな生産年齢である30代、40代の日本人PR保持者の数は少なく、大半を占める50代後半から60代前半の人材は「実年齢」から要望点に合致しないケースも出てきています。

弊社の顧客に60代前半の日本人を紹介したところ、履歴書も見ないうちにはじかれました。「実年齢」が高いので年下の上司が扱いづらいなどが理由でした。一方、他の顧客には、その方のこれまでの経歴、前職での評価を説明しつつ、「実年齢」は高いものの「仕事年齢」は当該職務をこなすのに適しているとして推薦し、面接を経て採用となりました。

別の案件では、50代後半の求職者から就職の相談を受けました。日本の国立大学を出ており、日本での経歴も申し分ないのですが、人材紹介会社を訪ねたところ「実年齢」だけを見られ、紹介できる案件はないと言われたそうです。日系企業の求人案件は「~歳まで」と「実年齢」で区切る傾向が強いといえます。

一方、外資系企業は特定の職務をこなすために実年齢よりも仕事ができる「仕事年齢」でみられることが多いです。この方の場合は外資系企業での職務経験が長いので、「仕事年齢」で着目されるかと思います。少子高齢化が急速に進む中、定年年齢の概念も薄れてきています。

適切な人材獲得するためには「実年齢」をいったん置いておき、「仕事年齢」を見極め、職務にマッチするかどうかで採用活動をすることが、シンガポールでも日本でも主流となることが予測できます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年8月17日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。