第220回:最新の人口統計から
前回はシンガポールでは65歳以上が人口に占める割合が2022年に18.4%となり、急激に高齢化が進んでいる現状に触れました。統計局が10月に発表した23年6月末時点の統計では、総人口が前年同月末の564万人から約5%増加し、592万人となりました。
うち国民は361万人で全体の61%を占めており、増加率は1.6%と微増でした。残りの約4割はシンガポール国籍を持たない外国人となります。筆者のような永住権(PR)保持者も本来は外国人ですが、統計局のデータでは永住権保持者の54万人と国民を合わせた415万人が「Singapore Residents」として、ひとまとめにすることもあります。
国民・永住権保持者以外は「Non-Residents」、いわゆる「真の外国人」で177万人と全体の3割を占めます。23年6月末時点での総人口の増加は、Non-Residentsの増加が主因です。外国人労働者の就労ビザは、高技能労働者向け就労ビザ(EP)、中技能熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)、単純労働者向け就労ビザ(ワークパーミット=WP)の3種類です。
23年6月末時点のEP保有者は、前年同月末比で16.8%増の2万8,500人と大幅に拡大しました。その理由としては、アフターコロナ(新型コロナ禍終息後)の経済回復に伴う新たな企業進出や駐在員の増強が考えられます。
また、EP申請時のポイント制度「補完性評価フレームワーク(コンパス)」が9月1日から導入される前の「駆け込み申請」が少なからずあったのも影響しています。ただ、駐在員待遇でない現地採用社員の場合は、給与以外の手当などを積み上げないとEPが下りないケースもあり、申請が通らず就職や転職ができなかったケースも出てきています。
最も増加率が高かったのはWPを所持する建設業従事者で、前年同月末比で18.5%増でした。人数では6万8,500人も増えています。コロナ禍の影響で中断していたインフラ整備などの公共事業での需要が一気に高まったことが背景にあると思います。
例えば、都市高速鉄道(MRT)の路線は延伸の計画があり、国内のあちらこちらで南アジアからの出稼ぎ労働者を多く見かけるようになりました。外国人労働者が増加傾向にあるにもかかわらず、飲食や小売等などのサービス業では引き続き人手不足が顕著であり、募集広告を出しても人が集まらないとの声をよく聞きます。
従業員の高齢化も課題となっています。先般自身が訪れた飲食店では、高齢者の従業員がテーブルを片付ける際に重い皿をうまく運ぶことができず、来店客とぶつかり皿を床に落とすといったことがありました。その後の始末にかなりの時間を取られるなど、高齢者の雇用の難しさを垣間見た気がしました。
政府は高齢者の雇用を促したり、飲食・小売業従事者などの最低賃金を定めた「賃金改善モデル(PWM)」を打ち出したりと、シンガポール人の雇用を促そうとしていますが、効果が出るにはまだ時間がかかりそうです。
人手不足はシンガポールに限らず世界中で起きており、労働者が安心して働けるようなシステム作りの重要性がさらに高まっています。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2023年10月26日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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