第230回:再雇用制度について


8月9日はシンガポールの59回目の建国記念日(ナショナルデー)の祝日でした。今年は金曜日だったことと、日本では8月12日が「山の日」の振替休日だったため、筆者の周りではお盆休みを取って日本に一時帰国する人を多く見かけました。

シンガポールは来年、還暦を迎えます。かつての高度成長は「東南アジアの奇跡」とも呼ばれていました。今年の世界競争力ランキングでも1位となり、小さい国ですが今後も経済成長を続けていくのではないかと思います。

当地の経済成長を支えてきた世代で、日系企業で長期にわたり活躍されてきたローカルのスタッフには還暦を超えた人も多くいます。弊社が派遣しているうちの1人は65歳を超えていますが、日系企業に勤めていた経験を活かし、仕事の質は高く評価されています。実際の年齢と仕事年齢は違う場合もあり、熟練者だからこその能力を発揮していると言えます。


長きにわたり正社員として日系企業に勤めている人もいます。日本企業の駐在員は3年から5年程度が一般的です。同社で勤続22年のシンガポール人の人事マネージャーにインタビューをした際には、「駐在員が入れ替わる度に私を通さないと何も進まないから、辞めるわけにいかない」と笑顔で話していました。

一方、日本本社の年功序列型の人事制度をそのまま導入している別の日系企業の新任ディレクターは、「高齢の現地スタッフの仕事の成果が良くない割には長年にわたる功労が重視され高給になっており、どうしたらよいか分からない」といった相談を受けることもあります。

社員は、63歳の誕生日で法律上の「定年」となります。定年を迎える人に関しては、再雇用を行うかどうかの判断をする必要があります。高齢者再雇用法に基づき、雇用主は63歳の誕生日の6か月前に再雇用の対象となる社員との話し合いを開始し、3か月前までに再雇用契約の内容を提示しなければなりません。最短の契約期間は1年、最長で68歳まで更新可能である必要があります。

再雇用の対象となる社員の条件は、シンガポール国民または永住権(PR)保持者であること、55歳以降も就労を続けており63歳時点で2年以上現雇用主の下で働いていること、雇用主から満足できる仕事上の成果を発揮していると評価されていること、仕事を継続するにあたり健康上の問題がないこと、と定められています。

なお、政府は22年7月1日から再雇用契約年齢の上限をかつての67歳から68歳に改定しており、26年7月1日から69歳に引き上げる予定です。雇用主は再雇用ができない場合、対象者の同意のもと他の雇用主に再雇用を移管することができますが、実際にはこのケースは0といってもいいでしょう。

その代替(救済)策として、雇用主は再雇用をする代わりに雇用支援金(EAP)を支給することで、対象者に退職してもらうことができます。その金額は月額基本給の3.5カ月分相当で、最低6,250Sドル(約70万4,000円)、最高1万4,750Sドル(約164万4,000円)の範囲になります。退職金制度がない企業が多いため、雇用支援金は退職金のような位置づけになります。

少子高齢化が進んでいる昨今、高齢者でも仕事年齢の若い人の雇用維持は戦略上重要になっていますが、残念ながら組織運営上負担になっている人の場合は代替要員を探すなど、然るべき対策を取る必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年8月18日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。