第232回:シンガポール人のエンジニアを雇いたい

「シンガポール人は油を触る職業に就こうとしない」という話を、弊社の顧客である船舶メンテナンス会社の社長がしておりました。同社は船舶部品の修理・メンテナンスを主業務としており、当然ながら「油」を使います。従業員構成は大半がフィリピン人やマレーシア人といった外国人労働力で、シンガポール人は1人もいない状態です。

単純労働者向け就労ビザ(ワークパーミット=WP)を取得するにはシンガポール人も雇用する必要があります。同社では営業や事務でシンガポール人を雇用して割り当て(全従業員に占めるWP保有者の割合を規定する措置)を確保しています。

シンガポール人エンジニアの雇用に関しては、募集広告を出しても応募数が少ない状況です。その中から面接を設定しても当日キャンセルする人や、希望給与が予算を超えている人もいてなかなか採用に至ることができず、結局は外国人労働力に頼らざるを得ない状況が続いています。

雇用主は外国人のWPを取得する際に5,000 Sドル(約57万円)のセキュリティーデポジット(保証金)を用意する必要があります。しかしマレーシア人は対象外で支払う必要がありませんが、それ以外の国籍の外国人労働者(中国、フィリピン、ミャンマー、バングラデシュなど)には同デポジットを納めることが求められ、雇用主に負担がかかってしまいます。

最近は外国人労働者の出身国で経済成長や賃金上昇がみられます。中東地域でも人材確保の勢いが増している現状下で、シンガポールへの「出稼ぎ」は以前のように魅力的ではなくなってきています。またインドネシア人はメイドを除いてWPを取得できない状況となっており、インドネシア人エンジニアをWPで雇うことはできなくなっています。

WPは年齢制限もあり、18歳以上でマレーシア人は58歳未満、その他の国籍は50歳未満の人しか新規申請ができません。世界的に高齢化が進む昨今では、年齢制限によりさらに外国人労働者が逼迫(ひっぱく)することも考えられています。

WP以外では中技能の熟練労働者向け就労ビザ(Sパス)を取得する方法もありますが、取得要件となる給与水準が年々上昇しています。昨年9月からは月額3,150Sドルが最低ラインとなりましたが、45歳程度であれば4,650Sドルまで引き上げないと認可されない可能性もあるのが現状です。

前述した船舶メンテナンス会社では、フィリピン人とスリランカ人にSパスを発行していますが、更新する際に賃金上昇が発生する場合は、更新をせず解雇も視野に入れているとのことでした。

シンガポール人を雇用するために必要なこととしては、当然ながら魅力的な「報酬」「福利厚生」を用意する必要があります。福利厚生の1つとして出勤時に7~10Sドルの「食事手当」を支給することや、有給休暇以外に「誕生日休暇」や「特別休暇」といった休暇を付けることで報酬以外の待遇を改善していけば、新規の応募が増えリテンション(人材の確保)にもつながっています。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2024年10月17日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。