第236回:現地採用社員の保険事情
前回述べましたが、年間賃金補助(AWS)が12月に支給された後、「新しい年」に向けて転職活動を行う求職者も増加してきました。新たな仕事を探す上での希望条件は、「給料(できれば前職よりも高い金額)」「職場までの通勤時間」「職務内容」といった主要な要素のほか、「フリンジベネフィット(福利厚生など賃金以外の便益)」を重要視する傾向が高まっています。
フリンジベネフィットの例として、通勤手当(自宅から職場までの往復交通費×勤務日数で計算)や飲食業では食事手当(1食8Sドル=約900円=程度)を支給しているケースがあります。高級品を扱うある流通業者では、自前で白い襟付きワイシャツを用意することを前提に「ユニフォーム手当」を支給しているという例もみられます。
手当以外にも「ジムの利用券支給」「年に1回の社員慰安旅行」「目標を達成した際のピザパーティー開催」など、社員の満足度を高めて魅力ある職場を提供し、社員の定着率向上に取り組んでいる企業もあります。

日本では社会保険として「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5種類があり、全方向で補償する制度が充実しています。シンガポールでは日本のような国民皆保険制度はありませんが、国民や永住権(PR)保持者は中央積立基金(CPF)の医療口座「メディセーブ」を利用することができます。
ただ、入院などの大きな病気では使えますが、通院に関してはほぼ全額自己負担となります。こうした中で企業の間では、通院に関するフリンジベネフィットを設けている事例があり、求職者も企業による通院関連の条件を、細かくチェックする傾向があります。導入例として下記の3点があります。
(1)年額通院医療費を設定しているケース:
ある企業では通院の医療手当を最大年間600Sドル、同月間80Sドルと定めています。通常のクリニック以外に歯科、TCM(鍼や漢方治療)も認められています。月間の上限を設定していない場合、年末時点で未使用だった600Sドル分のうち、450Sドルを整形外科の治療費として請求された例も実際にありました。こうした状況に対応するため、通院に関わる平均値を月間の上限とすべきです。
(2)保険会社に加入するケース:
生命保険と共に通院もカバーできる保険に加入することで、傷病休暇を申請した上で保険会社の提携先のクリニックで通院費を無償でカバーできます。ただ、提携先のクリニックがオフィスや自宅の近くにない場合があるなど利便性に制限があります。
(3)海外旅行傷害保険に加入するケース:
主に駐在員とその家族が入る保険で、日系の保険会社が運営し、日本語が通じる病院を利用する際に医療費負担がかからないようにするベネフィットです。最近では駐在員以外でも、数は少ないですが重要な役職に就く現地採用社員が加入する場合がみられます。以前は保険料が年間10万円ほどでしたが今はかなり上昇しています。
保険や通院費のカバーに関しては企業によって方針はさまざまですが、社員に安心感を与える制度の一環として最適な導入が求められます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2025年2月20日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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