第237回:より良い人材確保をするために
シンガポール政府は2月、2025年度(25年4月~26年3月)の財政収支を発表しました。法人税の増収などで68億Sドル(約7,640億円)の財政黒字を見込んでいます。日本の場合、黒字はおろか、25年度の基礎的財政収支が4兆5,000億円の赤字になるという試算が表れていました。
国の規模は違うものの、いかにシンガポールの財政が安定しており、経済振興策や企業のイノベーションを促して世界有数の競争力を維持しているかが認識できます。シンガポールに対する固定資産投資(FAI、設備投資に相当)も今後さらに増加していくことが予測されています。
こうした「国の強さ」を背景に、シンガポールに投資・進出する企業は増加し続けています。日系企業も新型コロナウイルス禍後にシンガポールに進出した、または進出を予定している企業が増加しており、その中で「人材の獲得」は必須となっています。

人材獲得には以下のような方法が考えられます。
1) 政府管轄の人材募集サイト「マイキャリアズフューチャー(My careers Future)」に求人を出す。ただ誰でも応募ができることや、フィルタリングができていないことなどがあり、要件にあった人材を見つけるには苦労するケースが多い傾向があります。
2) 交流サイト(SNS)を利用して採用する
弊社のスタッフの1人は、交流サイト(SNS)のフェイスブックを通じて人材募集に応募してきました。既に入社5年目になります。ほかにもビジネス向けSNSのリンクトインなどを使った転職活動がみられます。ただSNSに掲載されている本人の情報が古い場合などは、良いことしか書かれていないこともあり真偽の情報かを確かめる必要があります。
3) 人材紹介会社を利用する
一般的な求人広告を出す場合、年齢(例えば30歳以下希望、新卒のみ)、民族(中華系優遇)、宗教(イスラム教徒不可)、性別(できれば女性がベター)、婚姻状況(既婚者で子供のいない方)といった区別は差別条項となり禁止されています。
最近はこのほか、言語(日本語の話せる方)や国籍(マレーシア人優遇)などもシンガポール人の応募を排斥しているということで厳しく禁止されています。ある日系企業は「できればシンガポール人以外を希望」という求人広告を出したところ、当局から目を付けられ譴責(けんせき)処分(違反について警告し将来を戒める処分)と、30日間の謝罪広告掲載、6カ月間の外国籍人材の雇用禁止(就労ビザの発行禁止)が言い渡されました。
その点、人材紹介会社を利用する場合は上記の禁止事項をあまり知らなくてもスペックを伝えれば、候補者を紹介してもらえるメリットがあります。日系企業であれば、日本語能力がある方を求めることが多く、組織の構成員の多数が中華系であれば中華系の女性、あるいはマレーシア国籍の永住権(PR)保持者を求める場合もあります。
人材紹介会社は上記の禁止事項を順守した上で、顧客の要望に沿った人を人材市場から獲得していく必要があります。これらの1、2、3の手段で面接を実施し、採用するかどうか迷った場合、適性検査を行うことも客観的に判断できるのでお勧めです。1~2回の面接では分かりにくい本質が見えてきます。弊社が利用している適性検査では、簡単な質問項目に答えると7段階で採用すべきかどうかに関する情報が出てきます。
日本ではリクルート・ホールディングスが提供するSPIという適性検査があります。どのみち採用して勤務してもらわないと分からないからこそ「試用期間」があり、その間に労使双方で職務適性があるかどうかを確認します。採用活動には時間と労力が必要であるからこそ、採用が失敗にならないためには募集手段ミックス(1、2、3の組み合わせ)と、適性検査を行うことをお勧めいたします。
弊社斉藤連載中DailyNNA2025年3月20日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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