第239回:シンガポールにおける休暇申請
シンガポールでは5月3日に総選挙が実施されました。全97議席のうち与党・人民行動党(PAP)が87議席を獲得し圧勝しました。米トランプ関税の影響による世界経済の先行き不透明感の高まりや、物価高など国民生活にコネクトする懸念が論争点となりました。
その結果として、安定を求める国民の心理的要素もあり、与党が信任を得た形となりました。残りの10議席は最大野党の労働者党(WP)が獲得しました。シンガポールでは義務投票制が設けられています。今回の投票日は土曜日であり、政府はこの日を「祝日」としました。「祝日」の取り扱いについては各方面から当社に疑問・質問が寄せられました。
結論から申し上げますと、3日を「祝日」とすると、土曜日を非勤務日(Non-Working Days)としている企業の従業員は、別の日に代休を取得するか1日分の給与を受け取る権利があります。各所から弊社に寄せられたお問い合せとして、「総選挙に関係のない外国人にも、なぜ代休を1日付与しなければならないのか」「流通業で投票日の3日に勤務している場合はどうしたらいいのか」といった内容がありました。政府のサイトでは、従業員に代休を1日付与するとありますが、「いつ」までに取得してもらうかは明記されておりません。
弊社では5月中に取得する社員や、友人の結婚式に参加するため6月に母国に帰るマレーシア人スタッフなど、今回発生した「追加の祝日」の取得時期を各自で自由に設定してもらいました。会社としては「Public Holiday in lieu(祝日の代休)」として記録を残し、通常の有給休暇とは分ける必要があります。
その他、ある日系企業で今年1月に日本から赴任された方が、シンガポールの休暇の一種である傷病休暇(SICK LEAVE、MCとも呼ばれます)に疑問を持たれていました。日本では傷病休暇制度がないため、「なぜ有給休暇とは別に傷病休暇があるのか」と感じておられました。
この方が勤める日系企業では、社員が月曜日などに突然「病気」になり、出社せずにMCの申請がありました。傷病休暇制度があるのは分かりますが、「繁忙時に限って病気になるのは疑問が残ってしまう」と仰っていました。また別の企業では以前、正当な理由なくMCを取得するのを防ぐため、「アテンダンス・アローアンス(皆勤手当)」を支給していました。3カ月連続、6カ月連続でMCを取得しなければ、さらに皆勤手当の金額を2倍、4倍と上昇していました。

ある商社では、1月1日を起算日として年間14日間付与される傷病休暇を7日以上取らなかった従業員に対し、特別ボーナスとして数百Sドル(1Sドル=約110円)を支給していました。ただ人材開発省の見解では、従業員が一定期間、傷病休暇を取得しなかった場合、企業がこの従業員に賞与を与えることは認めないとしています。これを受けて上述2社の制度は「廃止」となりました。
弊社は、ある飲食業の経営者から「従業員が頻繁にMCを取得するため、解雇したい」との相談を受けました。しかし、傷病休暇の取得が多いことを解雇理由にすることは違法となります。この場合、あくまでも仕事のパフォーマンスに問題があることを口頭で伝え、解雇通達書では端的に雇用契約書の通達期間に基づいて勤務最終日を明記するだけです。
従業員が傷病休暇を取得できる権利を人材開発省が定めている以上、従業員の健康管理にも目を配りながら、同休暇の取得をなるべく少なくしてもらうことが重要となります。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2025年5月15日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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