第244回:シンガポールのMICEビジネスの優位性
9月中旬に大阪・関西万博を訪れました。開催時期が終わりに近づくにつれ、慌てて来場する人が増えたようで、会場は人・人・人の波。アクセスはほぼ地下鉄しかなく、埋め立て地に夢洲(ゆめしま)駅がありますが、会場のゲートにたどり着くまでに約2~3時間待たされました。
シンガポールで長年、展示会への通訳・イベントスタッフ派遣事業を行い、同国のMICE(会議、視察、国際会議、展示会・見本市)業界に身近に接してきた身としては、日本の国際展示会の段取りの悪さが際立っていると実感しました。
一方で、シンガポールにおけるMICE業界のさらなる成長性に大きな期待を寄せることができました。同国は整備されたインフラや移動の利便性の高さ、効率的な運営といった強みがあります。MICE業界では出展者や来場者による宿泊、飲食、移動などで大きなお金が動きます。イベント従事者(物流、会場施工・設営、通訳や派遣スタッフ)の雇用も生まれるなど観光業界の成長分野として経済に好循環をもたらすビジネスモデルです。ハード(会場や宿泊)関連を扱う業者だけでなく、ソフト(人材)面のサービスを提供する業者にとってもMICEビジネスは重要です。

最近弊社が請け負った事例として、日本の地方銀行の頭取によるシンガポール金融センターの視察ツアーで同行通訳の依頼が挙げられます。日系企業による発表会の受け付け、誘導スタッフの手配なども行いました。
10月中旬にはシンガポールで東南アジア最大級の日本食品見本市「フードジャパン」が開催され、北海道から沖縄まで、日本全国津々浦々から企業や団体が集まり、地域色豊かな産品が展示される予定です。まずは東南アジアのハブ拠点であるシンガポールで自社商品の売り込みを図り、将来的に他の東南アジア諸国での展開を見据えるという出展者が多いでしょう。3日間にわたり開催予定で、出展者や来場者による宿泊・飲食・移動の大きなお金が動きます。
シンガポール政府観光局(STB)が発表した「観光2040」ロードマップによると、同局はMICE関連の観光収入を2040年までに従来比で3倍に拡大する目標を掲げています。国内では先ごろ、自動車レース「F1シンガポール・グランプリ(GP)」が開催されました。F1開催に伴う2008~24年の観光収入は計約2億Sドル(約233億円)ともいわれます。
また、昨年3月には米人気歌手テイラー・スウィフトさんのコンサートがシンガポールで行われ、近隣諸国も含め世界中から多くの観客がシンガポールを訪れました。その際の宿泊費が通常時と比べて2倍近くに高騰したことも記憶に新しいところです。
シンガポールでのMICEビジネスで問題点があるとすれば、やはりコスト高が挙げられます。日本の地方自治体から視察や商談会に関する人材派遣のご依頼をいただき、見積りを提示すると「費用が高い」と断られるケースが増えています。昨今の円安とシンガポールドル高の影響で予算が取れないことが足かせとなっています。
ただそれを差し引いても、シンガポールのMICEビジネスの潜在的成長性は大きいといえるでしょう。天然資源を持たない同国が、政府が成長分野の一つにMICEを掲げていることからもその重要性がうかがえます。質の高い人材サービスは今後さらなる需要の拡大が期待されます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2025年10月16日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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