第246回:AWSとボーナスの違い

今年も残すところ残りわずかとなり、年末と言えば経営者にとって従業員に年末賞与(ボーナス)の支給を検討する時期となりました。

シンガポールでは、年末に支給される賞与は一般的にAWS(Annual Wage Supplement、年間賃金補助)と呼ばれ、「13カ月目の給与」という位置付けで認識されています。AWSは「生活給の一部としての補助金(Supplement)」と定義付けされており、変動賞与(Variable Bonus)など会社の利益、個人の業績・評価に応じて支払われるボーナスとは区別されて考えられています。

AWSに関しては、法的上支給の義務はありません。しかしこれを理解しておらず、雇用契約書の中に「12月にAWSを支給する」と明記してしまうと、必ず支給しなければならなくなります。

明記していなかったことにより労使紛争に発展した企業もあるため、雇用契約書や従業員就業規則の中で「当社には『13カ月目の給与』と呼ばれるAWSを支払う法的責務はないが、社員には12月に給与と共にAWSを支払うこととする。ただし、中途入社の正社員に対しては按分(あんぶん)して支給する」といった一文を入れておくことが重要です。あくまでも支払う義務はないものの、慣行で支給すると一文を添える必要があります。

弊社の顧客の中には、業績が好調なある企業でAWSを1.3カ月分支給すると検討していた例もありました。しかしAWSは業績連動賞与ではなく補助金の位置付けであり、人材開発省(MOM)はAWSについて基本的に給与の1カ月分を超えてはならないと明言しています。

結果として、その企業では、給与の1カ月分(フル)のAWSに加え、業績連動ボーナスを各個人に支給することになりました。

一方で、業績の悪い企業においては、1カ月分のAWSを支給することが困難なケースも散見されます。前年度に1カ月分を支給していた場合、減額は従業員のモチベーション低下につながり、支給後に退職してしまうリスクも伴います。

また、ある飲食店運営会社ではキッチンスタッフに支給する一方、ホールスタッフには支給なしとするなど、同一職場内で「ダブルスタンダード」が発生している例も見受けられます。しかし限られた原資の中で人材確保が重要となるため、キッチンスタッフ数名に対し、0.5 カ月分を支給するといった対応をとる企業も見られます。

支給対象者は通常、
(1)3カ月以上継続して勤務し、試用期間を終えた正社員
(2)12 月31日時点で在籍している者
と定義されます。従業員が12月中に退職を申し出た場合は支給対象外とするのが通常です。

特に10月1日以前に試用期間を終了した従業員に関しては、起算日を入社日にするのか、試用期間終了日とするのかを明確化する必要があります。通例は、12月31日までの在籍期間を基準に日割り計算する方法が採用されています。

日系企業で業績が好調な場合、AWSに加えて業績連動ボーナスをあわせて支給する例も多く見られます。中華系の企業は旧正月(春節)前に支給する例もあり、支給月に関しては特に明確な決まりはありません。

AWSは1年間頑張ってきた社員へのねぎらう意味合いも踏まえ、少なくとも半月分は支給することが望ましいでしょう。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2025年12月18日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。