第249回:在宅勤務(WFH)を認める際の注意点
シンガポール政府は先ごろ、女性1人が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率について、2025年は0.87だったと公表しました。これは24年の0.97よりさらに悪化し、過去最低水準となりました。この結果はシンガポール社会にとってかなりの衝撃と危機感をもたらたしたと言えるでしょう。将来的な労働人口を含む人口減少に備え、移民による人口を補っていく必要性が高まっています。
出生率が上がらない要因としては、婚姻件数が減ったことに加え、晩婚化や女性の社会進出、さらには子どもを育てるコストの高さが挙げられます。
こうした背景から、キャリアと子育ての両立を支援するために、企業は子どもがいる女性社員に対して在宅勤務(WFH= Work From Home)制度を提供するケースも増えています。

筆者のように「仕事は職場で行うもの」という従来の考えや習慣を持つ年配者は多くいますが、一方で若い世代を中心に在宅勤務が広く浸透しています。特に通勤時間の長い日本では、売り手市場の中で、新卒採用の条件として「在宅勤務」を認める例や、従業員が勤務地の制約(転勤なし)を求めるケースも増えてきました。
シンガポールでも、給与以外の待遇面の要望で、「在宅勤務」が挙がる例が珍しくありません。新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が定着したことにより、コロナ規制緩和後に社会全体で出社制限がなくなっても在宅勤務を引き続き入社の条件にしている事例もあります。
ただ「仕事はチームで行うもの」との考えから、在宅勤務を認めない企業もあります。米国の実業家イーロン・マスク氏は2022 年、自身が経営する会社で在宅勤務を廃止し、週40時間以上のオフィス出社を義務付けました。その結果、在宅勤務廃止に同意できない社員は退職を選択しました。
シンガポールでは人材開発省(MOM)が2024年12月、在宅勤務などの柔軟な勤務形態(FWA:Flexible Work Agreement)に関するガイドラインの運用を開始しました。その中で柔軟な働き方の一つに「在宅勤務」が位置づけられています。あくまでもガイドラインによる奨励のため法的拘束力はないものの、社員から申請があった場合は基本的に受理します。ただし、雇用契約に規定がなければ理由を付けて却下することも可能です。
ある企業では管理部門のみ在宅勤務が認められており、他部門の社員から「社内の在宅勤務制度はどうなっているのか」「なぜ自分たちは対象外なのか」といった疑問や不満が噴出しました。
雇用契約の条件に「在宅勤務」の規定がない中で、在宅勤務を一部の社員に認めている場合には、雇用契約とは別に「覚書」を締結し、週2日まで在宅勤務を認めるといった形で、個人ごとに承認する必要があります。在宅勤務の理由(育児や体調不良など)は個人によって異なるため、「他の人が認められているのに自分はなぜ認められないのか」という不満に関しては、企業として雇用契約違反をしているわけではないため何も言う必要はありません。
ただ、不公平感が広がると、組織全体のパフォーマンスや士気の低下につながる可能性もあります。属人的な対応が生じると、「ひいき」「やっかみ」などといった感情が生まれ、在宅勤務を認めている社員に対してマイナスの感情が広がる場合もあります。在宅勤務の取得について社員全体へのアナウンスを行うなどの早急な対応が求められます。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2026年3月19日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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