第252回:飲食業の賃金引き上げに関する注意点
筆者がよく利用するホーカーセンター(屋台街)の店で、最近ワンタンメンの値段が1シンガポールドル(約125円)値上げされていました。以前は大・中・小の3つのサイズから選んでいましたが、現在は小と大の2つのみとなり、肉の量も少し減りました。店長とは以前からの知り合いで「値上げしたのですか?」と聞くと、「もうぎりぎりだよ」と苦痛の表情を浮かべていました。
また、筆者が定期的に訪れていた日本食レストランは、家賃の滞納が続いた結果、ある日突然ビルのオーナーから強制的にシャッターを閉められました。出勤した従業員は事態を知らされておらず、ビルのオーナーに連絡しましたが音信不通で、給与の未払いについて不安を抱えたといいます。その後の交渉で最終的には支払われましたが、家賃滞納を理由にいきなり閉店になる飲食店もシンガポールではもはや珍しい話ではありません。

こうした事業コスト高に苦しむ飲食業者の懸念とは裏腹に、シンガポール政府は2026年7月から、低所得者層(国民および永住権(PR)保持者が対象)の賃金を段階的に引き上げる「賃金改善モデル(Progressive Wage Model:PWM)」で飲食業の基準賃金を引き上げます。飲食業向けでは23年3月にPWMを導入されており、今回が2度目の引き上げで26年7月から28年7月にかけて段階的に上げていきます。
PWMでは、飲食業をフードコートやファストフード店、テイクアウト専門店などの「クイックサービス」と、レストランなどの「フルサービス」の2区分に分類しています。
賃金テーブルも示されており、例えば「クイックサービス」のキッチンアシスタントは、最低月額賃金は2025年3月時点で2,155シンガポールドルでした。26年7月からは2,295シンガポールドル(プラス140シンガポールドル)へ引き上げられ、27年7月から2,435シンガポールドル(同プラス140シンガポールドル)、28年7月から2,575シンガポールドル(同プラス140シンガポールドル)で最終的には25年3月時点比で約20%の昇給となる予定です。
飲食店の店頭にある求人広告の案内を見ると、賃金の金額が書いてある部分に紙が貼ってあり、26 年6月からのPWMに基づく賃金体系に合わせていることがうかがえます。
賃金を上げて募集広告を出しても、飲食業の人手不足は解消されていません。PWMの影響を受けない若手の外国人の雇用を求めるケースも増えてきています。特にマレーシア人の社員をワークパーミット(WP、単純労働者向けの就労ビザ)で雇用し、シンガポール人と組み合わせた「雇用ミックス」をしているケースもあります。
政府は国民を雇用の中心とする「シンガポーリアン・コア」を飲食業にも適用することで、企業に国民の雇用を促進しています。しかし実際には、弊社の飲食業の顧客から「そもそもPWMに沿って募集広告を出しても応募すらこない」「内定を出しても辞退が続き、マンパワーの確保には結局、ベトナム人やフィリピン人の人材で補うしかない」といった切実な声が聞かれます。
一方で、若手の募集を諦め、皿を片付けるといった単純労働を行ってもらう高齢の国民を雇用することで、人材の組み合わせを進めている飲食店もあります。若手が募集広告を出しても集まらないのであれば、高齢者が活躍できる役割を提示し、相互補完で回してくのも人手不足への有効な対応策の一つと言えるでしょう。
弊社斉藤連載中Daily NNA 2026年6月18日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋
コラム執筆者

- プログレスアジア 代表取締役
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1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。
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