第253回:社員同士のもめ事が起きた時

人材開発省が発表した2026年1~3月期の雇用統計によると、2026年3月時点の失業率(外国人を含む全体、季節調整済み)は2.0%となり、ほぼ完全雇用に近い低水準を維持しています。また、求人倍率が1.46倍(26年3月時点)と高い状態が続いており、引き続き「売り手市場」という比較的安定した労働市場が継続しています。

このように雇用情勢は安定しているものの、企業内では「人」と「人」との軋轢(あつれき)が生じるケースも少なくありません。

ある飲食業では、業務の境界線が曖昧(あいまい)なことにより、スタッフ同士の押し付け合い(キッチンとホールの役割分担が明確になっていない)が発生し、結果的には顧客に迷惑がかかることになり、売上にも悪影響が及んでいました。

この件について弊社に相談をいただき、当該スタッフへのヒアリングを実施したところ、入社の前の業務内容と入社後の役割に相違があることが分かりました。雇用契約書の見直しを実施したところ役割分担の明確化したことで、スタッフ同士の協力関係の構築につながり、問題も解決をしました。このような問題を放置していれば、惰性で仕事をするようになり、働くモチベーションも低下する恐れがあるため、早期の問題解決が必要です。

また、別のサービス企業では、評価結果をきっかけに社員間の軋轢が生じているケースがありました。評価方法に関しては、企業ごとに千差万別であり評価基準も違います。このケースでは、社員Aと社員Bで年間評価による昇給率の差異について強い不満を抱いていました。

社員Aは自身に下された評価に満足できず、上司から気に入られて高く評価されている社員Bにひいきされていると考えるようになりました。本来評価結果は個人に起因するものです。社員Bの評価がどこでどのように社員Aに漏洩(ろうえい)したのかは不明ですが、何らかの経緯で社員Bの評価内容が社内に伝わってしまったことが、対立を深刻化させる要因となりました。

正当な評価を受けている社員Bは、社員Aの件が発覚した後も特に動揺せず通常通り仕事をしています。しかし社員Aは周囲の社員に不満をこぼし、社員Bとのミーティングでもわざと無視するなど社員全体のモチベーションを下げる行動をしています。

このように評価に不満を持つ社員が取るべき選択肢は2つあります。1つは、自分を適切に評価してくれる企業への転職を試みることです。もう1つは自身の評価を真摯に受け入れ、何が足りなくてどうしたら自分の評価が高まるのかを模索しつつ、社内でスキルアップやキャリアアップを目指すことです。不満や愚痴を漏らしながら仕事をするほど労使双方にとって無駄なことはありません。

弊社では今回の相談を受け、前述の飲食業と同じ手法で社員全員へのヒアリングを実施し、まず事実を確認し、その後必要に応じて口頭での注意や文書による警告文の発行を行って組織内の軋轢を早期に解決していきました。

雇用情勢が安定している今こそ、組織内の「人」に関する諸問題を早期に解決していくことが肝要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2026年7月23日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。