第51回 人事担当者のお悩み その11 カウンターオファーの出し方

先週まで東京と福岡に出張をしていました。九州の熊本県と長崎県は大雨の被害がありましたが、幸い福岡滞在中では雨はあまり降らず快適な滞在ができました。

福岡の空港は市街地にあるので左側の窓側に座ると昔の香港のカイタック(啓徳)空港着陸を思い出します。この香港の旧国際空港は窓から洗濯している人が見えるくらい市街地の中を通っていました。

福岡の空港はそこまでは近くはありませんが、空港から博多駅まで地下鉄を利用して2駅で移動コストが安くすぐにホテルにチェックインができます。

逆に東京エリアに戻りますと移動する度に交通費がかかりまた最寄り駅から宿泊地まで徒歩15分も結構ありシンガポールの利便性を改めて感じました。

さて、今回のお悩みは前の号(50号)の続きです。前の号で触れました「水面下で転職活動をしているようなんですが・・・」で相談を受けました。

午前中のみの有給休暇取得の増加や、社外に出て受話器を手で隠しながらこそこそ電話をしている姿を見てしまった為、「転職活動」をしているのでは、との相談でした。

その後2週間の月日が経った金曜日の夕方に当該30代の中華系シンガポール人から「相談事があるので個室で話したい」と社長にお願いがありました。

大体、金曜日の夕方に社員から個室で話があるというシチュエーションはほとんどが「退職」に関することです。案の定、「Resignation Letter」いわゆる「退職願」が提出されました。

counter-offer

二週間ほど前に相談を受けた際は「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただ、そうかもしれない方の確立が高いので心の準備と退職願が出た時に慌てない施策が必要」とアドバイスをしました。

まずこの社員は将来的に絶対的に必要なのかどうかの判断と、そうであれば、カウンターオファーを出し何が何でも引き止める準備をしておくことを進めました。会社としては責任に見合った給料を出していると自負してしても社員からは「見合ってない」と判断されることはよくあります。

金曜日の夕方の退社前に意を決しまして「退職願」を提出するのですから、それをひっくり返すには、会社の利益も熟考しカウンターオファーを提示しなければなりません。

「給料アップ」「賞与システムの改定」「役職手当の支給」「言語手当の支給」等賃金関係のカウンターオファー以外にも、有給休暇日数や特別休暇の付与、医療ベネフィットの充実、等ワークライフ・バランスに関する施策も必要です。あとは会社の将来性、キャリア構築プランを示すことが重要になってきます。

当然、会社としてもそこまでし引き留める人材(人財)がどうかの判断を行う必要があります。

代替者が労働市場にいるのかどうか、もし新規採用した場合の採用コスト及び教育に関わる時間とコストがどのくらい掛かるのかどうかの「試算」も必要です。また、一度退職の意を表した社員を恒常的に使っていけるのかの判断も必要です。

結論としては、当該企業としては「今辞められても困る」ということで、まずは社員の「退職理由」を聞いてみたところ、「残業が多い」のが一番の理由で西洋人の夫からもっと家庭重視をしてほしいと頼まれ、給料は低くても残業のない仕事を選びたいとのことでした。

結果、5時上がり時短と役職手当支給のカウンターオファーを出したところ「慰留」に成功しました。幾つかカウンターオファーのパーツを用意していた為、社員の希望と会社の条件変更が合致した形となりました。

今は夫のプレッシャーから開放され今は逆に仕事の効率があがり仕事の精度・スピードがかなり上がりました。(とりあえず)一件落着です。

Daily NNA 2016年6月30日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。