第2回 東南アジアにおける人事:その2 ローカル・オピニオンリーダー

今はサッカー・ワールドカップの開催期間中で、シンガポールでもロバートソンキーなどの繁華街でパブリックビューイングが行われています。

日本だけでなく欧州、南米各地のサポーターたちも多数います。シンガポールが世界有数のコスモポリタン(国境や国籍にとらわれず、世界を股にかける国際人)が集う都市であることが分かります。

前回は、「東南アジア」の地勢的なことを述べました。またまたサッカーのネタで恐縮ですが、サッカー界における「アジア」は、中東地域からオーストラリアまで幅広い地域を含めています。

しかし、中東地域にあるはずのイスラエルが、政治的な配慮から「ヨーロッパ」に入っているのが分かります。

今年は東南アジアサッカー選手権も開催されます。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に、東ティモールが加わった11 カ国が参加します。東ティモールはASEAN加入を目指しており、今後が注目されます。

さて本題の人事の話に入りますが、筆者が13 年前に大手人材紹介会社パソナ・タイランドの社長職を引き受けて、最初の出勤日の出来事が今でも脳裏に焼き付いています。

まず朝9時にスタッフがそろっていない、遅れて出社してきてから外で買ってきた朝ご飯(申し訳ないがチョット鼻につく匂いの食べ物)を机の上で食べ始める。ゴシップ記事満載のタブロイド新聞を読み始める。机の上には家族の写真がいっぱい、机上の4分の1を占拠している熊のぬいぐるみ……。前任者の成績不振による交代人事ではあったのですが、これでは成績は出ないというか、社員が不幸になると思いました。

15分以上連絡なしで遅刻してきた社員には、有給休暇を取らせて家に帰らせました。また朝9時以降の机の上での食事を禁止しました。

家族の写真はべたべた貼らない程度に許可しましたが、ぬいぐるみは撤去させました。当たり前の事を行っただけでした。

すると年配のローカルリーダーが私の所にやってきて、「タイでは……タイでは……」とタイの価値観、今までの社風について半分怒った口調で直訴してきました。このような場合、その国の文化(例えば「家族が何よりも重要」)を理解しつつも従業員の「育成」をしなくてはなりません。当初は嫌われましたが、やがて(当たり前のことが)浸透していき、業績回復を果たしました。6年間で社員の給与も2倍になりました。

日本から東南アジアに赴任された方は、「日本のやり方」をまず当てはめようとします。なぜなら日本のやり方しか、これまでしていなかったからです。

幸か不幸か、日本から一歩も海外に出たことがない方も、東南アジア赴任になるケースが増えてきていますし、年齢も年々若年化しており、ローカルスタッフの社歴や年齢のほうが赴任者よりも上の場合も増えてきています。

筆者のパソナ赴任時もそうでしたが、まずはローカルスタッフの中で、オピニオンリーダー的な立場の方と「意思の疎通」を図ることが重要です。

東南アジアではまだまだ属人的な要素が強く「ジャパン・オリジナル」を押し付けたところで反発されますし、それが理不尽な要求になると、特に「売り手市場」のシンガポールでは社員が言うことを聞かなくなり、場合によっては他社に転職ということにもなりかねません。

社員にこびを売る必要はありませんが、「こうすることにより、こうなっていく」というビジョンを明確にし、モチベーションを高めることが大切です。そもそも、東南アジアの方々は日本(人)に対して悪い印象は持っていませんから。

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。