第3回 東南アジアにおける人事:その3 インドネシアの潜在性

最近のニュースでは、イラクで武装勢力が新たな「イスラム国家」樹立を宣言し、ウクライナでは親ロシア派による武装闘争が続くなど国際情勢が大きく動いています。

日本近辺の東アジア情勢も尖閣諸島の領有権をめぐる中国との対立は2012 年後半に起こった反日(官製)デモ以来、さらに深刻になっているような気がします。

領有権の問題を起こさないように、かつての中国の指導者・トウ小平は「解決しない(解決する必要がない)解決方法がある」という名言を残しこの世を去っていきましたが、領有権の問題は勃発してしまった以上、「ALL or NOTHING」で、ある面全く妥協点のないこれも終わりなき「冷戦」でしょう。

このような状況下、日本企業による海外直接投資が急速に中国から東南アジアにシフトしています。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告によりますと、2013年の日本の対シンガポールへの直接投資は認可ベースで約3,600 億円と12 年と比べ約2倍になりました。

フィリピンやタイ、インドネシアなど他の東南アジア諸国への直接投資も確実に増えつつあります。一方、対中国に対する直接投資は約9,200 億円と金額は引き続き大きいものの前年比32%の大幅減でした。

領有権をめぐる反日感情の高まりに加え、人件費の上昇で労働集約型の日系メーカーを筆頭に将来に対する悲観的な見方が広がっています。中国の人件費に関してはタイ並みになっており、インドネシア、フィリピンをすでに大きく上回っています。また中国経済の先行きにも不透明感が広がりつつあり、恐らく直接投資の減少傾向は続くものと見られます。

中国の代わりに着目されているのがインドネシアです。市場の拡大が見込まれていることもあり、中期的に有望な投資先と見られています。

筆者の妻はインドネシア人で時々スマトラの実家に行く機会がありますが、先般久々に行った際は、家が増築され大画面のテレビが入り新車を購入していました。

以前は中華系が富のほとんどを独占していましたが、現在では非華人の中でも若い新中間層が増えてきており、国全体の経済が確実に成長していることを肌で感じます。

また年老いた華人を除き、インドネシアでは対日感情がすこぶる良い上、特にオランダによる400 年の支配から解放されたのは日本のお陰だと思われている場合も多く、いまだに歴史問題を取り上げる中国・韓国とは温度差を感じます。

先般インドネシアでは大統領選挙がありました。インドネシアの大統領は初代スカルノからスハルト、ハビビ、ワヒド、メガワティと5代目まではほとんど政変による交代でした。

ようやく04 年になって大統領を国民が直接選べる「民主主義」に転換し、現職だったメガワティを破りユドヨノ第6代目大統領が誕生しました。

ユドヨノ政権は2期10 年続いたので、今回は第3回目の大統領を選ぶ直接選挙になりました。シンガポールのインドネシア大使館には長蛇の列ができており、今回の選挙への関心の高さが伺えます。

10年間のユドヨノ政権の一番大きな成果は治安の回復・安定でしょう。テロを徹底的に押さえ込み、アチェの独立運動も解決して経済成長を押し上げました。

インドネシアでは「汚職」は「文化」と言われましたが、今では「犯罪」として各マスコミも徹底的に追及しています。シンガポールのように政府の透明性がすぐには上がりませんが、流れとしては確実に誰でも安心して投資できる国家として成長していく大きな潜在性を秘めています。

シンガポールから近いバタム島の工場団地にある日系企業に日本人女性を紹介したことがあります。

給料の他には税制が複雑なためか所得税も会社負担となっており、工場を見るまではこの求職者は前向きに考えていました。しかし、工場の近くにある社宅(ホステル)を見て、工場の事務所が男性ばかりの職場ということもあり辞退されてしまいました。

全体的に治安は改善しているものの、外国人が勤務する上での不安点をぬぐい去るにはもう少し時間がかかりそうです。

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。