第12回 ASEAN進出企業のジレンマ: その1 内なるモチベーションをいかに高めるか?

最近日本の経済番組をテレビで見ていると、日本ブランドの東南アジア諸国連合(ASEAN)への売り込みを取り上げた番組が多いことに気付きます。

インドネシアでのラーメン店の展開、ベトナムでのブライダルサービスビジネス起業、タイでスポーツ振興のための財団運営、などなど。

ただどうも気になりますのは、言い方は少しきついかもしれませんが、「日本のやり方」の押し付けが多いかな、と思うことです。

ASEANに進出された飲食業で、いきなり一人三役並みの働き方を押し付けてもなかなか馴染みません。

できないからといって罵倒するようなやり方は、日本では「はい、分かりました!」となるかもしれませんが、東南アジアでは即刻退社につながります。実際、日本の有名な飲食チェーン店がASEAN地域に進出しましたが1年と持たず撤退してしまいました。「日本のやり方」だけで失敗した例です。

もちろん日本のサービスは世界一の水準で、「おもてなし」「お客様は神様」の精神がどのサービス業でも行き届いており素晴らしいと思います。ですので「日本のやり方」と「東南アジアの多様性」をうまくミックスさせていくことが長期的に成功する秘訣かと思います。

ASEANに進出される企業はもちろん市場の優位性、勝算があるので進出されるのですが、マーケットリサーチを行っている第三者機関、調査会社の「数字」だけをうのみにして表面的な「市場感」だけを捉えているような進出企業も時々見かけます。

先般、弊社と提携している日本のコンサルティング会社の方が「斉藤さんが思っているほど、日本の中小企業はASEANのことを知らないんですよ」と仰っていました。

やはり進出前に3カ月くらい現地に滞在し、現地の方と暮らし、時には食あたりでお腹が痛くなって薬を探したりしながら、(いい意味で)苦しむような、「真の現地調査」が必要だと思います。つまり現地の従業員や顧客の目線に近づくということです。

とはいうものの、最初は現地の言葉が分からない、どのように付き合っていいか分からない、ということで弊社も含めた新規進出企業を支援する会社に「日本語」でお問い合わせいただくことも一つの手段としては有効ですが、あまり日本式「護送船団方式」で行くと大切な部分を見落としている場合があります。

また新規進出支援会社は会社を設立させることはビジネスになるので熱心ですが、肝心の東南アジアでの「運営」までは面倒を見てくれません。まして撤退となるとそっぽを向くかもしれません。

弊社の場合は、人事支援・代行を行っていますので運営サポートになります。

特に弊社のお客様からは、従業員の確保が死活問題になっているのでなんとかしてほしいとのご相談を頂きます。「売り手市場」の現状、過度な甘えを従業員に与える必要はありませんが、賃金以外の内なるモチベーションをいかに従業員に植え付けさせるかが、成功要因となります。

このモチベーションを「Intrinsic Motivation」と言います。「本質的な労働意欲」といった訳が適切かどうか分かりませんが、朝起きた時に「さあ会社に行くぞ!」と思うかどうかの意欲とも捉えられます。

または自分が行っている仕事の内容に満足しており、金銭などの報酬以外に、職務それ自体が報酬となるような動機付けです。

従業員意識調査を行いますと、経営側は「意欲的で積極的な職場」と捉えている一方、従業員側は「ストレスに満ちた封建的な職場」と感じているケースが多く致命的なギャップが生じている可能性があります。

悪い例としては日本式飲み会で「ノミニュケーション」を行うことが従業員にとってモチベーションアップにつながると思っていたら、思いの外それが「苦痛」になっていて社員から直訴されたケースも(筆者も経験あり)あり経営者が良かれと思ったことがデモチベーション(やる気の低下)につながる事があるので何が有効なのかは慎重に考えなければならないでしょう。

内なるモチベーションを高めるためには、経営者が従業員目線で共に成長していき、最終的には会社と社員の繁栄につなげる運営をしていく必要があります。

Daily NNA 2014年11月13日号より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。