第116回: 社員が辞める理由

英経済誌「エコノミスト」の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の調査によりますと、2019年版「世界主要都市の生活費ランキング」で、シンガポールが生活費の高さで6年連続首位となりました。

先般久々にとあるスナック菓子が食べたくなり近所のスーパーに行きましたら、普段1.4ドルのものが2.0ドルになっていました。

それ以外でも普段食べている「ワンタン麺」が50セント上がっていました。

値段据え置きの場合でも日本の手法と同じ手口で「量」を微妙に減らしている商品も出てきました。

不動産の値段が全体の物価指数に影響していましたが、不動産の価格はそれほど上がっていませんので、単に生活に関わる「食品」の値段が上がっているのは肌で感じます。

物価が上がっている原因の一つが「人手不足」です。昨年WSG(Workforce Singapore)主催のJOB FAIRに参加しましたが、主催者側によると、参加者は少なくとも150名以上は来られると予定していましたが、弊社が担当したブースには3名しか来ませんでした。

一人はオファーを出しましたが、全く返事もなくそのままお流れになってしまいました。

WSGの調査によると、社員が辞める理由は10項目あるとのことです。

1.会社の知名度、2.会社の規模、3.会社の場所、4.キャリアパス、5.教育の機会、6.昇給、7.仕事の柔軟性。8.給与額、9.職場の仲間、10.通勤の便利さの10項目あげており、このどれかの不満の理由が引き金になり「退職」につながるとのことです。

調査結果としては、10.通勤の便利さが崩れると「退職」につながるのが一番の理由だと言っていました。

日本に帰りびっくりすることが夜中の11時ころの下り電車中央線が超満員で都心から東京郊外に帰る人がいかに多いかを感じます。

つまり通勤には1時間以上は普通にかかっているのが普通であり「通勤」を「痛勤」と揶揄する人もいるほどです。

それに比べたらシンガポールは家から勤務地まで日本ほど遠くなくそれほど苦痛ではないはずですが、この点が一番の理由というのは驚かせられます。

とある日系企業がラッフルズプレイスから東部のタンピネスに移転した際に、家から職場が遠くなるとの理由で退職したスタッフが続出した例もあります。

つまり、家庭や趣味と仕事との「ワークライフ・バランス」を重視する傾向があり、またシンガポール政府が奨励した持ち家制度により職を失っても雨露しのげる場所があることが大きな要因ではないでしょうか?

長時間の通勤に我慢したり、過労死などということはシンガポールではほとんど聞きません。

あと上記の理由以外にも、日系企業で働く現地スタッフの退職する理由としては。「人前で怒鳴られた」があります。

遅刻をしたスタッフを社員全員の前で怒ったところ、次の日に辞表が出て現地法人社長が驚いたケースがあります。

また経理で採用したスタッフに総務担当がMC(傷病休暇)を取り休んでしまったので、総務担当の代わりに受付の天井の電灯を変えるよう指示をしたところ、「私の仕事でない危険な仕事を強制された」とのことで次の日から来なくなってしまった例もあります。

よく現地スタッフは「打たれ弱い」と嘆く現地責任者がおりますが、上記10項目を全て満たす必要はないものの、日本ではある程度通用するやり方でも、現地では仕事以上に精神的にストレスを与えるようなことをしてしまいますと「退職」につながりますので注意が必要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2019年3月28日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。