第130回: 残業手当は払うべきか

 

先般、JCCI(日本商工会議所)の創立50周年記念講演会にリー・シェンロン首相がパネリストとのインタビュー形式で講演をされました。

数年前には父親であるリー・クワンユー元首相、当時は最高顧問という肩書で講演されましたので親子二代に渡る講演を聞くことができました。

驚いたのは参加者の多さです。

まるでシンガポールにいる日本人ビジネスマンが全員出ているのかと疑うほどたくさんの方がいました。

受付は送られてきたQRコードでスキャンをしないと中に入れない徹底ぶりで、またセキュリティーも空港と同様の手荷物検査がありました。

講演の内容は「昔の日系企業は良かった」から始まり、最終的には日系企業頑張れみたいな形でオーソドックスな形で30分の講演が終わりました。

世界競争力ランキング1位(日本は6位)をおだてられて喜んでいたのが印象的でした。

さて、今回のテーマは「残業手当」を払うべきかどうかです。

最近弊社顧客企業にMOMの査察(レギュラーインスペクション)が入りました。

少々気難しそうな女性二人組が来まして、人事関係の資料に目を通していました。

そもそもMOMの査察に関しては絶対的な権力でNOとは言わせないほど強制力があります。

手順書があり、MOMが求める資料を全て提出しなければなりません。

また当日出勤しているスタッフの「抜き打ち」インタビューがあります。

これも強制力があり、担当官と一対一で企業側は入れない(内容を聞くことはできない)ことになっています。

恐らく法律上問題がないかどうかのヒアリングをしているのですが、1名だけでなく5名程度複数の社員をランダムに指名し、「共通の問題点」を探る行いをします。

当日指名されますの、事前の「口合わせ」は基本的にはできません。

以前、他の飲食関係にMOMの査察が入りました。

いわゆる「タレコミ」で。

しかも退職した元従業員が、現職の社員を代弁する形で、MOMに提訴しました。どこの国の役所も問題があるところには調査に行かなければなりません。

提訴の内容は、管理職で雇用契約を結んだにも関わらず入社してみたら飲食の製造業務が殆どで契約違反だというもの。

結局は管理職の仕事を60%以上にすることと数値で改善するよう決定が下されました。

さて、今回の査察は「残業」についてでした。

雇用契約書内に残業の定義を書くことと、残業手当が換算される期間を明記することを指摘されました。

特に注意しなければならないことは、以前は残業手当の支給対象は2250ドルまでと制限がありましたが、2019年4月1日以降、その垣根が2600ドルまで拡大したことです。

飲食業や小売業の場合、スーパーバイザー職のポジションが2250ドルから2600ドルのレンジであることから、もし以前のように2250ドルで上限を計算している場合、バックデートで支給しなければなりません。

では現場ではどのような対応が取られているかといえば、日系企業の場合は、いわゆる「見込み残業代」を含めた賃金ということで、15時間までは給与に含まれている雇用契約書を結んでいます。

つまり15時間以上勤務した場合は支給の対象になりますが、それを超えないようにしています。

または、フレックスタイム等を導入し、時間で給与を換算するのではなく、仕事の量の加減で残業手当を支給しないやり方もあります。

または基本給を2650ドルにして、残業手当支給対象の給与額から外すやり方もあります。

このように最近は、従業員側への条件が変わりつつありますので注意が必要です。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2019年10月31日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。