第139回:またもや外国人就労ビザの厳格化

毎日のように新型コロナウィルスのニュースが報道されています。

世界的にもイタリアの死者が中国に次いで増えてきており、欧州全体にも感染が拡大傾向になっています。

またアメリカ、南米にも広がってきており、細菌兵器によって世界全体がパニックに陥るという小松左京のSF小説「復活の日」ではないでしょうが、南極大陸のみが感染者がでない大陸なのかもしれません。

インドネシアでも検査をあまりしていなかったことも背景にあるのか、感染者がゼロでしたが、マレーシアから入国した日本人が感染していることがわかり、ゼロの神話が崩れました。

その後、インドネシア国内では親日国であるにも関わらず「日本人」を細菌扱いするなどの嫌がらせや「日本人お断り」のお店も出てきています。

イギリスでは留学中のシンガポール人が「東洋人」という理由だけで暴漢に襲われるなど世界中で憎悪犯罪(ヘイトクライム)が起こりつつあります。

さて、新型コロナウィルスが猛威を振るう中、シンガポールに拠点を置く外国企業にも激震が走りました。

2020年の5月1日よりEP(エンプロイメント・パス)新規申請の最低給与が現行の3600Sドルから3900Sドルに10%近く上昇します。

MOMの発表によりますと、3900Sドルの根拠は現地の四大新卒相当の金額とコメントしておりますが、現場で採用業務に携わる人間としては、職歴も全くない、現地ローカル社員を新卒で雇う際に3900ドルを支払う日系企業は「皆無」です。

その基準も間違いなく現場とはかけ離れており、あからさまに外国人の雇用規制をしたいのがミエミエです。

ただ、実際は23歳でいわゆる一流大学を卒業している外国人が3900SルでEPが認可されるのであり、40台前半で、普通の大学を卒業した人がEPを申請する場合、7800Sドル程度になるとの試算も出ております。

新型コロナウィルスの影響で、今後の経済の先行きが怪しく景気後退になることも背景にあり、雇用情勢はますます厳しくなるのを見越したのが今回の厳格化でもあります。

ただ、EPの取得を厳格化したところで、中高年のシンガポール人雇用、再雇用の比率は高くなるとは思いません。

一度失職していまいますと、半年を過ぎても同職位同給与のポジションで再就職することは難しく、その層の不満に答える形で今回の厳格化に踏み切ったのではないでしょうか?

また、EPが取得できない場合、その代替としてSパスがあります。

今年の1月1日にその最低給与の基準が2300Sドルに上がったばかりですが、それに追い打ちをかけるように、7月1日から外国人労働者比率の上限、いわゆる「クオータ」を構成する比率が15%から13%に改定されたばかりですが、そのクオータを構成するシンガポール人と永住権保持者の社員の最低給与額を現行の1300Sドルから1400Sドルに引き上げることを決定しました。

EPからSパスへの「逃げ道」も塞ごうとしていることが明確化しており、2021年1月からは同比率が10%になることが決定しており、つまりサービス業では14,000Sドルの人件費を支払うことができれば1人分のSパスが取得できる計算になります。

弊社の顧客である飲食業からは、とにかくシンガポール人を募集しても、応募者が少なく、また採用してもすぐ辞めてしまうので、できればフィリピン人かベトナム人を雇いたいとの声はよく聞かれます。

2016年に鳴り物入りで開業したオーチャードにある日本食レストラン街「ジャパン・フードタウン」も撤退しますし、進出した飲食業のいくつかも違約金を支払ってでも撤退した方が傷口を広げずに済むとのことで最近になりその傾向は増えています。

3900Sドルの新卒社員がキッチンで人参を切れば飲食業の雇用も広がるでしょう。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年3月12日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。