第143回:これから(コロナ後)の雇用情勢

シンガポールは未だにサーキットブレーカー(CB)中で外出制限が続いております。生活をする上で不自由さを感じることは、やはりオフィスの全面閉鎖です。

4月7日から既に1ヶ月が経っていますが、オフィスに行くことは「罪」になりますので、弊社も含め感染拡大の予防の為、テレワークを実施しています。ただ、どうしても物理的に行かなければならない仕事、例えば給与支払業務等がある場合は一日の勤務許可を取り全社員の25%のみ出勤させることができます。

制限があるものの、必要不可欠な仕事がある場合は柔軟に対応しているようで、他国のロックダウンのような厳格な措置ではありません。

またドミトリーでの集団感染は多いものの、市中感染者数は5月10日の時点では4件でその内訳は、シンガポール人と永住者で2名、ワークパス(EP等)保持者で2名でした。全体の感染者数の98%はドミトリーの集団感染で、ほとんどが軽症者ということでシンガポール全体としても早期の収束も期待できます。

まだまだ気は抜けませんが、段階的には様子を見ながら経済活動を再開させるとのことで5月7日より、鍼治療院の営業許可、5月12日よりバブルティーやデザートのみを提供している飲食店の営業が許可されます。持ち帰りのみで営業しているレストランもバブルティーの販売をしており、そこに客が殺到するという現象も起きています。また床屋(カットのみ)、洗濯サービス、ペットショップの営業も許可されます。

他の小売も遅くとも6月1日までには再開できる見通しができそうですが、入店するためには店頭にあるQRコードを読み取り、IC番号、名前、電話番号を入力しENTRYの画面が出た上で検温をしますとようやく入店可能となります。

店舗をもつ企業にはこのCB期間中、従業員は自宅待機を余儀なくされ、4月は給料を支給していたところも5月に関しては給与を全額出すかどうか検討中のところが多く、雇用助成金(JSS)は給与の75%を5月分として支給することを決定し支給されますが、実際5月はほとんどの期間が休業状態で労働対価としての給与はありません。企業は長期で働いているパートタイマーも実働時間に応じて給与を支給しますので、5月は事実上ゼロとなります。

雇用助成金も対象はシンガポール国籍社員と永住権保持者のみで算出基準は毎月給与から出しているCPF(中央積立金)から自動算出されます。またLEVY(人頭税)を支払っている社員WPとSパスの場合はそのLVEY支払いの免除と750ドルの支給があります。

一方、一般のEPを保持している外国人労働者には一切の補償はありません。弊社の顧客の場合、EP保持者が6名ほど在籍しており4月は自宅待機でテレワークを実施していましたが、対面業務の為、5月は会社から与えられるべき仕事も激減し、有給休暇
を同意の下で取得をしてもらい、なんとか雇用を維持しているようです。万が一6月になっても閉鎖が続く場合は、売上が見込めないこともあり、整理解雇(EPのキャンセル)もあり得ると言っていました。

どの業種も業績が悪くなるのは必至ですが、2008年のリーマンショック後のV字回復の例もあることから感染拡大が終息すれば業績が回復するかもしれません。但し短期的に回復する見込みは薄いため、これからEPを取得しシンガポールで勤務しようとする人は減っていき、また駐在員の数も減っていくことが予測できます。

建設現場で働く労働者や外国から優秀なブレインを積極的に取り入れてきたシンガポールも、今後は全く違った雇用、ワークフォースを形成する必要があるかもしれません。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2020年5月14日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。