第159回:2021年1月1日よりのSパス取得条件の変更につきまして

明けましておめでとうございます。
本年も「東南アジア人財羅針盤」をよろしくお願いいたします。

シンガポールの年明けは大雨で始まりました。
気温が20度近くまで下がり、北海道釧路市出身の方もはじめて「寒い」という言うほど体感温度が低くなりました。

元旦にニュースを見ておりましたら、BREAKING NEWS(ニュース速報)でシンガポールとマレーシア両政府が両国を結ぶ高速鉄道(HSR)計画を撤回したと報道されていました。

シンガポールとマレーシアの首都クアラルンプールを1時間30分で結ぶ予定でした。
マレーシアの友人に聞いたところ、シンガポール当局とマレーシア当局は「違う穴を掘っているから噛み合わない」と皮肉っぽく言っていました。

日本企業も車両や運航システムの入札の準備をしていましたが、シンガポールとマレーシアの間で何度も合意が延長され、交渉期限である2020年末の直後に「中止」が決まりました。

新型コロナウイルスの感染拡大が影響していることは言うまでもありません。
とにかくこれで両国のビッグプロジェクトも気泡と化してしまいました。

さて今回は、中技能の熟練労働者向けの就労ビザ(Sパス)について述べていきます。

Sパスの発行の基準となる最低月給は20年1月に従来の2300ドルから2400ドルに引き上げられました。

さらに20年10月には新規申請の発給基準が2500ドルにアップしました。
更新の場合は今年5月から2500ドルの基準が適用されます。

これに加え、21年1月1日からは企業の全従業員に対する外国人労働者の割合、いわゆるクオータが引き下げられました。

サービス業のSパス発給では、同割合が従来の13%から10%になりました。
10%ということは、シンガポール人およびPR保持者を10人雇いませんとSパス保持者1人を採用できないことになります。

Sパス1人分の採用枠を計算する際、以前は掃除員を月250ドル程度で雇うことで「数合わせ」をしていましたが、今は1400ドル以上でないと1人としてカウントされません。

当社の飲食業の顧客のケースでは、現地役員に1400ドル、また本来パートでもいいアドミンにも同額の1400ドルを支給しSパス採用に向けた「数合わせ」をしております。

さらに昨年10月からは、官営の求人求職サイト「マイ・キャリア・フューチャー・ドッドSG」で、Sパス申請時にも求人広告掲載が義務づけられました。

従来は専門職向け就労ビザ(エンプロイメント・パス=EP)だけを対象としていました。求人広告の掲載期間も従来の14日から28日へと2倍に延長されました。

同サイトでは、外国人向けの求人と同職位、同雇用条件のシンガポール人向け求人広告を掲載しなくてはなりません。

ただでさえ外国人の採用条件が厳しい上、ジョブス・バンクへの掲載義務が加わり、EPの抜け道でもあるSパスにも厳しい規制をかけることにより、より多くのシンガポール人の雇用機会を生み出そうとする政府の思惑がうかがえます。

では、このSパスと同等の職位・職種にどれだけのシンガポール人の応募があるのでしょうか。

弊社の飲食業の顧客はSパスのポジションに優秀なシンガポール人が集まるとは経験上全く思っていません。
そもそもシンガポール人は油を使う仕事、力を使う仕事、給仕の仕事には就こうとはしません。

今まではSパスのポジションは、飲食業で働くことをいとわない周辺国から出稼ぎにきた外国人が担っていました。
外国人ですので一旦仕事に就きましたらビザの関係で簡単には辞めることはできません。

一方シンガポール人の場合は、老若男女に関わらず、思った以上に仕事がきついなど少し負荷がかかると、次の日から来なくなったりするのは日常茶飯事で、また代替者を見つけることを考えますと、やはりSパスを対象とする職位・職種は、外国人雇用を中心にすべきだと思います。

一辺倒に規制をかけるのではなく、もう少し業態別で分けていく必要があるのではないでしょうか?

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年1月7日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。