第160回:ワークパーミットで働く労働者について

コロナ禍で暗いニュースばかりが続きますが、最近シンガポールにとって明るいニュースがありました。

シンガポールのホーカー(屋台)文化が国連のユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に昨年末認定されました。

同国での無形文化遺産の登録は初となります。

日本では「歌舞伎」や「浄瑠璃」など、古くから伝わる伝統文芸が無形文化遺産として認定されていますが、歴史の浅いシンガポールの「初受賞」は政府も悲願でした。

既に世界遺産に登録されているボタニックガーデンに続いて、国内で2つ目のユネスコ認定となりました。

確かにホーカーは、多民族国家シンガポールにおいて、年齢、性別、民族に関係なく地元客のほか、在住外国人、観光客にとっても不可欠な「食事処」となっています。

筆者の友人はホーカーセンターのことを「餌場」と呼んでいますが、無形文化遺産になったことで少しは敬意を表してほしいものです。

そのホーカーセンターで働く人の大半は「外国人」です。

一時期人手不足が加速し、客が自分でトレーを片付けるキャンペーンがありましたが、筆者も含め自分でトレーを片付ける習慣があまりなく、食べたらそのまま席を立つ人が多いため、結局は出稼ぎ「外国人」がその片付け業務を担っています。

彼らはWP(ワークパーミット)を取得し、シンガポールで合法的に仕事をしています。
2020年6月末時点でのWPの総数は約94万人で19年12月末から6%も減少しました。

もちろん新型コロナによる影響は大きいですが、それでも国内の全人口の約17%を占めており、労働人口比でも高い割合です。

WPは大きく3つに分かれます。
まず建設現場で働く出稼ぎ労働者です。
国籍は南アジア出身者が多くベンガル語を話すバングラディシュ人が多数を占めており、約35万人です。

一時期、彼らが宿泊するドミトリー(20人が一緒に寝泊まりする大部屋)で新型コロナのクラスターが発生しました。

今は大部屋も見直されましたが、コロナが発生していなければ、宿泊施設の部屋は改善されなかったでしょう。

次に、FDW(Foreign Domestic Worker)いわゆるメイドさんです。
ほとんどがフィリピン、インドネシア出身の女性です。
約25万人います。

メイド紹介所である程度家事の訓練を受けた上で、各家庭に住み込みで家事全般や子供の学校の送り迎え、犬の散歩まで、共働きが基本のシンガポールでは、必要とされている労働力です。

新型コロナの影響で、一度本国に戻ったメイドがシンガポールに再入国できない状態も続いています。

フィリピン人はクリスマス、インドネシア人はハリラヤの際に一時帰国が認められていましたが、各国が入国規制を敷いている以上、シンガポールにとどまらざるをえない状況でもあります。

その他のWP保有者はサービスセクター(オフィス、飲食店、小売業等)で働く労働者です。
サービスセクターで従事できる人の出身国・地域は、マレーシア、中国、香港、マカオ、台湾、韓国のみとなっており、マレーシア国籍以外は、雇用主は5000ドルの「保証金を」用意する必要があります。

このほかに最終学歴基づいて、MOMに毎月LEVY(人頭税)を支払うことが求められます。
金額は300ドルから600ドルと雇用数が増えていくに連れて値段が上がってきます。

ある意味で、労働構造がうまく分かれて機能しているように見えますが、コロナのように外的要因が発生しますと、WP層でカバーしてきた労働力が急激に不足するかもしれません。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年1月21日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。