第166回:外国人労働力の激減

シンガポールでは、一般市民向けにワクチン接種が始まりました。
医療従事者はもちろんのこと、公共交通機関で働く人達や、教職員にも接種が行われています。

まずは人と接触する機会が多い職種で働く人を優先で、早期に集団免疫の環境を獲得したいという政府の強い意志が伝わってきます。

筆者の周りでも60歳以上の高齢者で接種を受けた人がいます。
話を聞くと接種後に酔っ払ったようなフラフラした感覚を覚えた人や、日中眠くなり脱力感を感じた人など、副反応はある程度出るものの、特に大きな影響はなかったようです。

現在は主に米ファイザー製のワクチンが使われていますが、進んで接種を受ける人の中には、現在のワクチン在庫がなくなり他社のワクチンが使われる前に「どうせ打つなら一番信頼性の高いものを接種したい」という心理も働いているようです。

さて、家族ビザ(DP)保有者がこれまで就労する際に必要だった承諾書(LOC)の新規申請が、5月1日から事実上廃止されます。

これに伴い、弊社も含めて今まで就労承諾書を取得して働く家族ビザ保有者に労働力を頼っていた企業は、代替策として、通常の労働許可証(EPもしくはSパス)を取得して人材を雇用するしかありません。

ただ、周知の通り、EPの取得要件では、最低で月4500Sドルの給与が必要となり、Sパスは同2500Sドル以上の給与水準に加え、サービス業であれば1人の採用枠に対しシンガポール人や永住権保持者9人を雇う必要があります。

EP取得に必要な最低月給額4500Sドルについては、日本人であれば、東大、京大、東工大の卒業生だと23歳ならこの給与水準で認可されるかもしれません。
ただ40代で普通の私大を出ている人は、EP取得に必要な最低給与が8000Sドルを超えています。

最近シンガポール政府が「Foreign workforce numbers」(外国人労働力統計)を公表しました。
2020年12月時点のEP保持者数は、前年同月比9%減の17万7100人、Sパスは13%減の17万4000人となりました。

EP保有者が減少した背景には、EP取得に必要な最低給与額が20年に従来比で25%アップしたことがあります。
これにより、一般職の現地採用が困難になりました。

これまで旅行・ホテル業界で現地採用として勤務していた人が失職したり、コロナ禍で周辺諸国への出張ができなくなってシンガポールにいる意味がなくなった駐在員が本帰国したりする例も目立っています。

建設作業員など単純労働者向けの就労ビザ(WP)保有者は20年12月時点で前年同月比15%減の84万8200人となり、直近では最大マイナスを記録しまた。

20年はコロナ禍により、建設工事が延期・中止され、いったん母国に戻った後にシンガポールに帰って来られなくなったWP保持者が数多くいたことも背景にあるかと思います。

現在はどこの国・地域も自国民の雇用を保持・優先することは重要課題です。
ただ全人口の3割近くを外国人労働力に依存しているシンガポールでは、そうは簡単にはこうした構造を変えることはできません。

政府がシンガポール人の雇用に躍起になるのは当然のことですが、「外国労働者を歓迎しない」ということになれば、今までランニングの上位の常連だった「経済自由度指数」の順位下落や、シンガポール新規進出する企業の計画見直しなど、経済的にマイナスの影響が出ることも考えられます。

最近は日本の某タレントがシンガポールに移住をして話題になりました。
移民を考える外国人にとっても引き続き門戸を開き続けるシンガポールであってほしいと願います。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年4月15日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。