第174回:シンガポールへの入国規制緩和 その2

前号でも述べましたが、シンガポール政府は、国内での勤務を希望する外国人にオープンな姿勢を取るものの「量」ではなく「質」を調整していくとの方針を示しました。

小国であるシンガポールは移民や優秀な外国人労働者を積極的に受け入れて成長してきました。
政府による国民の雇用優先策では、外国人労働者の流入を制圧するような北風政策を取る動きが数年続いています。

ただ、あまり効果が出ていないと感じます。
飲食・流通業では求人募集広告を出してもシンガポール人からの応募はほとんどなく、「外国人」を雇用するしかマンパワーを埋められないケースがいくつかみられます。

外国人の流入を制限すればするほど、将来的にシンガポール経済が停滞して、海外からの投資が減少し、雇用も増えないと危機感を感じたことが、今回の方針表明につながったのだと思います。

新型コロナウイルスの感染リスクが高い国・地域からの就労ビザ保有者の入国については、8月10日から順次、規制が緩和されました。

ワクチンの2回目の接種を完了し、2週間が経過した人は、同日以降に接種証明書を提示することで入国できるようになりました。

具体的には、ビザとは別途入国に必要な「入国証明書」の申請受け付けが再開されました。
入国後は、ホテルなどで14日間待機する措置(SHN)を受ける必要があります。

政府はこれまで、入国許可証の申請受付を停止しており、既に就労ビザや家族ビザの仮許可(IPA)を取得した人には入国延期を求めていました。

10日からの入国規制緩和を受け、入国証明書の申請が殺到するのを予測して同日早朝に申請をした方は、早い人で12日に入国許可を得ることできました。

案の定、11日以降は入国申請の枠が1ヶ月先まで埋まり、9月中旬でないと入国ができなくなりました。

ただ、日本の場合はワクチン接種2回目を終えた人が全国民の4割ほどで、接種完了者の多くは高齢者です。

これから2回目を打つ人も多く、結局のところ入国時期は9月中旬以降でちょうど良いケースもあります。

入国を延期されていた方は、これで順次シンガポールに入国でき、政府指定のホテル(運が良ければザ・リッツ・カールトン・シンガポールなどの5つ星ホテル)に14日間の待機措置を受ければ、晴れてシンガポールで仕事や生活ができるようになるとホッとしていました。

そう思っていた直後、19日に政府から入国規制に関する新たな発表がありました。
ワクチン接種完了から2週間以上経過した人が条件ですが、日本からの渡航者で入国申請が認可された場合、20日午後11時59分からホテルなどの政府指定施設、もしくは自宅での待機を選択することが可能となりました。

規制緩和は良いことですが、変化があまりにも目まぐるしく混乱が生じていることは否めません。
10日に入国を申請した方は自宅ではなく政府指定のホテルで待機するということで、どの日付で入国申請したかによって待機場所に明暗が分かれる形になりました。

自宅隔離は、「同一家族」が「同時期」に開始することが条件となっています。
夫婦と子供2人の家族で、既に夫が仕事で先に当地に赴任している場合、後から入国する妻と子供は夫が居住しているのと同じ場所で待機措置を受けることができません。

妻・子供が自宅で待機する場合、夫は他の宿泊先に移らなければなりません。
小さい子供がいれば自宅の方が良い気もしますが、あえて政府指定施設を選び、通常の予約料金では泊まれない高級ホテルに食事付きで宿泊する手もあります。
その点は個人の判断に委ねられます。

シンガポールでは新型コロナの感染状況が下火になりつつあると思っていましたが、最近になって外国人労働者向けのドミトリー(居住施設)でクラスターが発生してしまいました。

また感染が拡大すると、朝令暮改的な発表でコロナ関連対策が大きく変わる可能性もあり、こうした状況は今後もしばらく続きそうです。

人事・総務担当者はこれまで以上に政府から発信される情報に瞬時に対応できる体制を整えて置く必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年8月26日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。