第175回:業績不振による解雇について

シンガポールでは新型コロナウイルスのワクチン接種率が人口の8割以上に達しました。店内飲食は2回目のワクチン接種から2週間経っていないとできません。

筆者はこれまでワクチン接種は「様子見」でしばらく躊躇していましたが、カフェやレストランで顧客との打ち合わせができないことや、仲間とのいわゆる「飲み会」に参加できないといった行動制限を受け、ついに先月末に1回目の接種を受けました。

接種場所は自宅から徒歩5分のコミュニティーセンターで予約の必要もなく、10分程度で終わりました。2回目の接種は9月中旬で10月には「店内飲食」が可能となります。
最近は私の周りの「反ワクチン派」も行動制限に我慢できなくなり、接種する人が増えてきました。

シンガポールのワクチン接種率は上昇しているため、感染者も減少するかと思っていましたが、中心部の商業施設「ブギス・ジャンクション」やバスターミナルなどでクラスターが発生しています。

政府は先ごろ、ランチパーティーや懇親会など職場での社交的な集まりを8日から禁止すると発表するなど、頻繁にコロナ対策を打ち出しています。相次ぐコロナ対策を受けシンガポールでも「コロナ疲れ」が出ているように感じます。

こうした状況下で、飲食店では一時閉店に追い込まれる例も増えています。なんとか雇用を守りたいのはやまやまですが、やむなく解雇をしなければならないケースも増加しました。

弊社の顧客である経営者から、従業員1人の解通告を出すのを手伝ってほしいとの依頼を受けました。
2年ほど欠勤もなく真面目に勤務していましたが、業績不振のため即日解雇を通達してほしいとのことで、店舗に出向き経営者のサインの入った解雇通告書を本人に手渡しました。

解雇通告を従業員に渡すという行為は、仕事とはいえ嫌なものです。反応は人それぞれで、「あ、はい」と淡々と説明を受け取って5分で終わることもあれば、泣きわめく人、夫や家族を呼んでくる人、「GIVE ME ONE MORE CHANCE!」と嘆願する人もいて、状況により対応が変わってきます。

今回のケースは「即日解雇」のため、企業としては雇用契約に準じた精算をする必要があります。まずは当日まで働いてきた給与の支払いや1ヶ月の給与保障、残りの有給休暇の買い取りなどを行います。

例えば今年の有給休暇付与日数を10日で250日間勤務した場合、解雇時点での有給付与日数は「10×25÷365=6.8日」となります。端数の扱いは企業によってさまざまですが、当該企業の場合は四捨五入で7.0日となりました。今年は既に4日取得したので、残りの3日分を日給分とかけて支給します。

また未払いの医療費のレシートやその他の手当も精算する必要があります。人材開発省の指針では、即日解雇の場合、解雇通告日からできるだけ3日以内に給与などを支給することとしています。

当該企業は、できれば給与支給日に支給したいとのことでしたが、会社事由による即日解雇のため、業績悪化とはいえ、2年間勤めてきた従業員に対して企業としても「誠意」を示すべきです。

この従業員の例のように、商業施設でのクラスター発生で業績悪化が進み、経験値の高い貴重な従業員を手放すことでしか生き残れない企業もあれば、新型コロナの感染状況が落ち着いた後の業績改善を予測して新規採用をする企業も存在します。

シンガポール政府はコロナと共存しながら経済を正常化させようとしています。ただ足元では保健省が6日、今後2週間は公共スペースや別世帯にかかわらず、重要性の低い社交的な集まりへの参加を控えるよう要請するなどコロナ対策を強化しています。

この2週間を「観察期間」にするとのことですが、なんとか感染を抑え込み、エンデミック社会への移行に伴う対策を進めてほしいものです。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年9月9日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。