第180回:マレーシアへの帰国を求めるスタッフについて(その2)

シンガポールの1日当たりの新規感染者数は最近、1,000人台が続くようになり、ようやくピークアウトを迎えているように見えます。かつては感染そのものを抑え込む「ゼロ・コロナ」を目指していましたが、今は感染リスクを抑えながら経済活動を再開する「ウィズ・コロナ」に転換し、国境も徐々に開きつつあります。

今月22日からは、国内の行動規制が一段と緩和されました。ワクチン接種完了者の店内飲食は、同世帯でなくても1グループ当たり5人まで可能となりました。これまでは同世帯に住む人同士でないと5人での店内飲食は認められなかったため、飲食店側が店内飲食者に対して同世帯であることを確認する手間が増えていました。

このようにコロナ規制が目まぐるしく変化する中で、対応に苦慮する飲食店側からは既に悲鳴の声が上がってきておりました。今回の緩和措置を受け、飲食店にとっての書き入れ時となる年末の外食需要の取り込みに弾みがつきそうです。

さて、新型コロナウイルスワクチンの接種者を対象に隔離なしで入国できる枠組みVTL (ワクチントラベルレーン)に今月29日からマレーシアも加わります。マレーシア入国時も同様の枠組みとなるため、シンガポールに移住するマレーシア人にとっては、ようやく隔離なしで一時帰国できる朗報となっています。

マレーシアとはワクチントラベルレーンは、シンガポール・チャンギ空港とマレーシア・クアラルンプール国際空港間を結ぶ航空便での往来に適用されます。同便を運航する航空会社のチケットは通常、100~200Sドル台くらいですが、来年の春節の時期には高いもので約600Sドル前後に高騰しています。

ワクチントラベルレーンの専用便の運航は限定されており、両国間を行き来したい人は航空券購入で狭き門に殺到しているようです。さらに両国政府は今後、ワクチントラベルレーンを陸路にも広げる方針を示しています。両国を陸路で結ぶバスの予約も殺到しそうで、今後の動向から目が離せません。

弊社の顧客には、WP(ワークパーミット)を保有するマレーシア人の従業員が約20人います。マレーシアとのワクチントラベルレーンの運用開始に関する発表を受け、マレーシア人従業員が次々に長期休暇申請を提出しているそうです。中にはコロナ禍で結婚式を2年間延期にしているスタッフもおり、長期休暇と慶弔休暇を合わせて20日以上申請しているケースもあります。

マレーシアに帰る理由としてはこのほか、「シンガポールでは歯科治療費が月給の半分近い料金になってしまうため、マレーシアで歯医者に通いたい」というスタッフもいます。このように理由はさまざまですが、母国に「帰省」をしたい人は、マレーシア人だけでなく、筆者を含めて当地に居住する在留邦人も同じでしょう。

年末年始に日本へ戻る方は、12月下旬に帰国して来年1月9日の日曜日あたりにシンガポールに戻ってこようとする方が多いようです。来年2月1~2日の春節の時期に母国に戻りたいと考えているシンガポール在住の中華系マレーシア人の間では同年1月下旬ぐらいから休暇を取ろうとする事例が増えると予測できます。日本人が年末年始を日本で過ごしたいと考えるのと同様です。

飲食店や小売店の経営者側としては、コロナ禍で抑制されていた消費が戻る「リベンジ消費」が徐々に動き始めている中、皆が一緒に長期休暇を申請されると人手不足になるのは必至です。このため、全ての長期休暇申請を認めるわけにはいきません。一方で、母国への帰省のために今まで有給休暇をためていたスタッフもおり、「有給休暇取得の権利」の施行をどう公平に与えるかが肝要になってきます。

陸路でワクチントラベルレーン解禁については、両国政府24日、正式に運用を開始すると発表しました。航空便と同じく29日から始まります。マレーシアとのワクチントラベルレーンの運用開始を受け、企業はマレーシア人スタッフから提出される長期休暇申請をいったん受理し、学生バイトを確保するなど年末商戦から春節に向けたマンパワーの調整を今のうちから行う必要があります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年11月25日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。