第182回:エンデミックに向けて

今年もあとわずかですが、世界中が新型コロナウイルスに振り回されたまま新年を迎えそうです。シンガポールでは、外国人の全面入国禁止といった厳しい水際対策は行われていません。また、どこのショッピングセンターも大勢の人でにぎわっています。

弊社の顧客である飲食業者もワクチン接種完了者なら1グループ当たり最大5人まで店内飲食を認める緩和措置が導入されてから、売り上げが右肩上がりに伸びていると安堵しておりました。

先日、数年ぶりに東南アジアサッカー選手権を中心部のナショナルスタジアムまで観戦しに行きました。シンガポールVS東ティモールと対戦相手はサッカーではマイナーな国だったので、観客は少ないかなと思っていましたが、平日にもかかわらず8000人以上の観客が入り、かなり盛り上がっていました。

当然ながら入場時にワクチン接種証明を提示し、食べ物や飲み物は持ち込み厳禁。マスクは常時着用といった感染予防措置をしつつ大型イベントを開催していこうとする政府当局の努力が伺えます。

日本の新型コロナの感染者状況をみると、ワクチン接種や集団免疫の獲得に伴ってデルタ株の感染が収束に向かっているとの楽観論が出始めており、徐々に経済活動が再開されつつあります。

またサッカーの話題で恐縮ですが、日本で12月19日に行われた天皇杯全日本選手権の決勝では観客数を制限せずスタジアムはほぼ満員とのことでした。ただ、新たな変異株「オミクロン株」への脅威は増しています。在外邦人は日本に帰国できるものの14日間の待機措置が求められ、全世界からの外国人の新規入国は原則禁止されています。

弊社の日本人スタッフは先ごろ、日本に一時帰国しました。空港でのコロナ検査はPCR検査ではなく唾液から検体を採取する抗原検査で、30分後に陰性結果が出たため、車で迎えにきた親族とともに実家に戻り14日間の自主隔離に入りました。

あっという間にオミクロン株が従来のデルタ株に置き換わりつつありますが、デルタ株を凌駕して感染力は強いものの、弱毒性で重症化しないことも期待されています。特にシンガポールやその他の東南アジア地域では、パンデミックからエンデミックに移行していくことを前提に、感染予防対策を取りながら経済活動を再開させる政策を取りつつあります。

国境が開き始めているので、マレーシアなど海外からの外国人労働者も戻りつつありますが、飲食業では経済活動の再開に伴って「人手不足」が発生しています。もちろんシンガポール人の雇用を優先するのが前提ですが、飲食業や流通業では人材の取り合いが発生しており、せっかく内定を出してもその間に他社から良い待遇を提示されたため本人が入社日に出社しないことも頻繁に起きています。

人事・採用担当者はエンデミックに向けて、先手先手で募集広告をかけたり、報酬付きの社員紹介制度を導入したりするなど、あらゆる手段を駆使して人材を獲得する必要があります。今年の東南アジア人「財」羅針盤は今号で終了です。2022年は新型コロナも収まり、平常な世の中になってほしいと祈ります。

皆様良い年をお迎えください。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2021年12月23日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。