第183回:人手不足を打開するには

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。いまだに世界中が新型コロナウィルス禍の状態にありますが、2022年も「人「財」羅針盤」をよろしくお願いいたします。

当連載は「東南アジア人「財」羅針盤」として、2014年6月よりスタートしましたが、新型コロナウィルスの発生以来、渡航規制の影響で東南アジア各国への出張が制限されるなど、域内でのビジネス展開が難しい状態が続いています。

こうした状況を鑑み、今年からシンガポールを中心とした人事労務関連の情報を解説する「シンガポール人「財」羅針盤」として新たなスタートを切らさせていただきます。

シンガポール政府は既に「ゼロコロナ」政策から「ウィズコロナ」政策に方針転換を行っており、感染対策と経済活動の両立を図っています。世界的に新変異株「オミクロン株」の感染が拡大していますが、ワクチン接種率の高さや、重症化リスクの低さによる医療負担の軽減などを受け、インフルエンザのようなエンデミック(日常的に流行する感染症)化の段階に移行することを目指しています。

店内飲食については現在、1グループ当たり最大5人に制限されており、大人数での飲食は解禁されていませんが、弊社の顧客である飲食店では売り上げがかなり回復しているとのことでした。今後新たな規制強化が行われず、感染が収束に向かってほしいと期待を込めて言っていました。

職場勤務では、在宅勤務を基本的な働き方とする措置が続いていましたが、今年1月1日から全社員の5割まで出社できるようになりました。筆者が通勤で使っているMRTも最近は混み始めています。昼食時も飲食店には長蛇の列ができており、通常の風景が戻りつつあると実感しています。

ただ出社するには、ワクチン接種を完了しているか、感染の回復から180日以内であることが条件となります。当初は、例外措置としてワクチン未接種の人でも事前のPCR検査で陰性結果が出れば出社を認めるとしていましたが、政府はその後この規定を見直しました。

1月15日からはPCR検査で陰性結果が出てもワクチン未接種者の人は出社ができなくなります。雇用主は未接種者を解雇することもできることにもなりました。欧米の航空会社や金融機関がワクチン未接種者の人を解雇するニュースは見ていましたが、シンガポールでは国全体での集団免疫を作り上げ、いち早く通常の経済状況に戻したいという強い意志を感じます。

国内の行動制限も多少あるものの、ワクチン接種完了者はほぼ自由に行動できるようになりました。ショッピングモールの内の小売店や飲食店はどこもにぎわっており、かつては空き店舗で「FOR RENT(貸します)」の文字が目立っていましたが、現在は集客の多いモールではほぼ空きがなくなってきています。

店舗の売り上げが改善傾向にあることはいいことですが、そこで働く従業員が不足しています。昨年12月のボーナスを受け取ってから退職する社員も目立っており、マンパワー不足が発生しています。人材募集広告を出しても応募者は外国人が多く、外国人労働者の「採用枠」を確保できなければシンガポール人の雇用を優先せざるを得ません。

募集広告で人が確保できない場合は、人材紹介エージェントを使うこともありますが採用コストが上がってしまいます。最近効果が出始めている募集手段は、アポなしで気軽に面接が受けられる「ウォークインインタビュー」です。

先ごろ弊社の顧客の人材募集を会員制交流サイト(SNS)などを使って告知し、週末にウォークインインタビューを実施したところ10人以上の候補者が訪れ、そのうち半数以上を採用することができました。もともとその企業や職場に興味があって応募をしてくるため、離職率が比較的低いのが特徴です。

このように積極的に「仕掛け」を作っていくことで、人「財」争奪戦に先手を打つことが可能となります。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年1月13日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。