第185回:社員からのキックバックのペナルティ

2月1日と2日は旧正月(春節)の祝日で久々の二連休でした。1月31日(旧正月前日)は月曜日で社休日とする企業が今年は多いように感じました。

31日のいわゆる「大みそか」は親戚一同がレストランに集まり1テーブル10人程度で食事をするのが通例ですが、新型コロナウイルス下で1テーブル5人までという行動規制は続いています。早く10人1テーブルで食事ができる日が来ることを期待します。

さて、MOMからキックバックに関する通知が人材業界の関係者向けに一斉にメールで届きました。裏を返せばそれだけ関連する懸案が多いということです。

Employment of Foreign Manpower Act (外国人労働者雇用法)では、雇用主が外国人労働者から金銭を徴収することを禁止しています。発覚した場合は最大3万Sドル(約260万円)の罰金刑もしくは最長2年間の禁固刑、またはその両方が科せられます。全てのワークパス(労働許可証)の発給も停止されます。

キックバックの事例では、外国人労働者に労働許可証(EPやSパスも含む)を発給する際に、実際の給料とビザ申請時に申告した給与に差額が生じるケースが目立ちます。政府によるシンガポール人の雇用優先政策に伴い、EPでいえば2006年に月給2,500Sドルでビザ申請しても発給されていたのが、今は最低4,500Sドルと1.8倍に増えています。

「ちょっとシンガポールで働いてみようかな?」などと軽々しく仕事をすることが難しくなりました。とはいうものの、どうしてもシンガポールで働きたいという外国人は多く、日系企業からは現地採用の日本人を雇いたいという要望も聞かれます。

2か月以上分のボーナスを安定的に出している企業は、ボーナス先払いで年収を基本給の14か月分とし、これを12で割った数値を月額基本給とみなして本来の基本給よりアップさせてEPを取得している企業もみられます。それでも足りない場合は、社員との暗黙の了解で「キックバック」を行っている企業も実際にはあります。

「セキュリティーボンド(法律や外国人雇用規定に違反した場合に備え、雇用主が政府にデポジットを払う保険のような制度、マレーシア人は対象外)」で、単純労働者向けの就労ビザWP保有者を雇用する際、雇用主は5,000Sドルのデポジットを政府に納める必要があります。

MOMからのメールを見ると、外国人労働者が雇用主に5,000Sドルを支払うこと雇用条件として労働者から金銭を徴収しているケースです。規模の小さい建設業などで横行していることは時々耳にします。

ある日系飲食業では、マレーシア人のWP保有者に対し「トレーニング費用」として従業員から金銭を徴収しています。ただし強制ではなく労使双方が合意をしているので、グレーな部分はありますがキックバックには当たらないケースもあります。

キックバックについて労使双方で合意していても、会社に不満を持つ現職の社員や、解雇などで不本意に退職した社員による「内部告発」によってMOMから摘発されることもあります。MOMのメールでも、キックバックと思われる場合は直ちに連絡をするよう促しています。

ではなぜキックバックがなくならないのかを考えると、企業が求める適切なシンガポール人の人材が集まらないことが大きな原因です。募集広告を出しても応募すらこないという嘆きはよく聞きます。

ただし、キックバックの代償はかなり大きいため、たとえ労使双方で合意していても危ない橋はわたるべきでないといえます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年2月10日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。