第188回:外国人労働力のさらなる減少傾向

シンガポール政府は新型コロナウイルス対策で既に、感染者を完全になくすことを目指す「ゼロコロナ政策」から、一定の周期で繰り返される流行を想定した「エンデミック政策」に切り替えています。

国境も徐々に開きつつあり、入国する長期滞在ビザ保有者に取得を義務付けていた入国許可証は、2月22日から廃止されました。日本からの渡航者の場合、基本的にワクチンを接種証明があれば、観光客などの短期滞在者を除いて入国手続きが簡素化されました。

国内では日中のショッピングセンターがにぎわっていますし、人気の飲食店では行列ができています。このまま新型コロナもピークアウトし、通常の経済社会活動が戻りつつあるのかなと思いきや、筆者の周りでは当社社員や取引先の社員、日本からの渡航予定の方含めて感染が急激に広がっています。

ブースター接種を受け、熱心に感染予防に取り組んでいた知人も先日感染しました。ただ、昨年と違うのは、感染してもほとんど重症化しないこともあり、「死」に対する恐怖感が薄れていることです。

さて、MOM(人材開発省)が2021年12月末時点での外国人労働力の統計を発表しました。EP保有者数は16万1,700人となり、前年同月比で約1割減少しました。コロナ禍前の19年12月との比較では約2割減でした。

原因としては、コロナ禍による経済低迷が雇用市場に与える影響が大きかったことが挙げられますが、政府の外国人雇用規制の強化も背景にあると思われます。EPは、新規取得に必要な最低給与が現在の月4,500Sドルから9月には給5,000Sドルに引き上げられます。

住宅手当など給与以外の手当を加味しませんとEP取得はさらに厳しくなることが予測できます。21年12月時点のSパス保有者も、前年同月比で約1割減りました。新規取得に必要な最低給与が現在の2,500Sドルから9月には3,000Sドルに跳ね上がるので、こちらもさらにビザ取得が厳しくなるでしょう。

一方、WP(ワークパーミット)保有者数は、前年同月比2%増の84万9,700人と微増でした。一時はドミトリーでの集団感染で、南アジア出身者を中心とした労働者が建設工事に従事できない状態が続きました。

ただ最近はワクチン接種が進み、集団感染もほぼなくなりつつある中で、待機措置なしで入国できるVTL(ワクチントラベルレーン)を利用して入国ができるようになったことが増加に寄与したとみられていいます。

今回の統計で落ち込みが最も目立ったのはOther Work Passesの保有者です。前年同月比15%減の2万7,200万人でした。DP保有者が就労の際に取得していた就労承諾書であるLOCの保有者や、TWP(トレーニング・ワーク・パーミット)、TEP(トレーニング・エンプロイメント・パス)が含まれます。

その他のビザ保有者の大幅な減少は、21年5月からDP保有者が新規にLOCを申請することができなくなったのが一番の理由でしょう。

日系企業では、LOCを取得してパート勤務されていたDP保有者の方も少なくありませんでした。EP規制強化を受け、企業はEPで現地採用者を確保するのが難しい中、これまでは給与水準に制限のないLOCの取得者が日系企業で重宝されていました。

このLOCにも規制が入り、基本的にはLOCの更新ができないことから、恐らく今年12月にはその他のビザの保有者数が激減していることが予想されます。WP保有者やメイドを除いた外国人就労者数は、21年12月に6%減の63万5,700万人となりました。

今後アフターコロナ時代に入り、経済活動再開が加速してさらなる労働力が必要とされる中、外国人雇用規制はさらに厳格化されるため、企業には外国人労働力に頼らない人事政策が求められます。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年3月24日号「シンガポール人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。